弓の力学 (11)

   あとがき

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 あなたの弓 を見る眼に何か変化はありましたか・・・ 

弓は、右手と一つになって動かなくては・・・・・・・・


上 J.P.Gabriel G-30 (made in Germany)
下 J.P.Gabriel G-18 (made in Germany)

弓・・・?

メカニズムは・・・大変 シンプル でした。 だから、

良いものは良い、 ダメなものは何をしてもダメ ・・・ がハッキリしているのですね

 

 

 こんなジグをもって楽器店に行って弓を試奏させてもらったら、お店の人は腰を抜かすのではないかと思います。

 バイオリンやチェロ・・・楽器本体であれば音が出ますので、楽器選びの時点で自分である程度納得ができます。
工房ミネハラのインターネットショップでチェロをお求め頂く場合でも、楽器自身の材料グレードやセットアップの内容で楽器自体のクラスと価格にはご納得頂いていると考えております。

 しかし、弓となると品選びに難しさを感じておられる方は多いと思います。 自分の腕前は果たして弓の良否を見ることができるのだろうか・・・
 この
「弓の力学」  はそんな時に何を拠りどころにしたら良いか・・・という素朴な疑問に少しでも助けになることを考えて検討してきました。 スタートはこんな始まりでした。

 若いころであれば2−3日考えれば誘導出来た・・・と思われる関連式なども、齢60歳半ば近くになるとひと月以上も掛ってしまうものもありましたが、何とか総合的にいろいろなパラメーターの関連を導き出せたと考えております。 中には大胆に近似して関連付けした内容もありますが、弓の基本性能 を知る上では何ら問題ないレベルと思っております。 私が社会人となり電機メーカーで機械を設計していた当時は、電卓すら無い時代で計算は計算尺や手回し計算機の時代でした。 ましてや、パソコンやCAD、有限要素法の解析手段など・・・想像もつかない時代でした。 それでも設計した機械は、途中で何度かは手直しなど繰り返しましたが、最終的には満足に動き、性能も耐久性もお客様にご評価頂けたと考えています。

 要は、機械の要素をいかに精密に調べられるか・・・ということではなく、その オーダー が信頼できる数値範囲に有るか否かを見極める・・・ということにあると思います。

 「弓の力学」  の検討をスタートした時点では、良い弓 というのは何が違う・・・?。 そういう弓だと 誰が使っても良い音 を出せる・・・?。 そんな所を突きとめたい・・・と考えておりましたが、残念ながら、そのような決定的な結論には至りませんでした。 良い音 を出せる・・・と云うのは、やはり演奏する人の腕前によるのでした。

 しかし、それなりの腕前を持った人には、この程度の 基本性能の良い弓 を使って欲しい・・・という結論は得られたと考えております。

 それが、「振り子振動の振動数が高い弓」 という、ごくシンプルな結論となりました。  それはすなわち、曲げに対する強さを示す 縦弾性係数 E の値の大きな材料でスティックが作られている弓の証です。 さらに、「振り子振動の振動数が高い弓」 ということは、弓の重量・重心など弓選びの段階で気になるパラメーターの性能も加味された総合的な結果を示してくれます。  しかも、それはごく簡単な方法でわかります。 このビデオをご覧ください
 
 この方法は 工房ミネハラ が辿り着いた最も簡単な計測方法と思いますので、何方でも出来ると考えております。

 私が、長年使用している *A.R.Sandner* (made in Germany)  は、相当に 良い弓 と信じて使っていましたが、今回のテストでは普通の「中級品の上」程度のグレードであることが分かり、内心やや残念な気もしていますが、「そうか、** で、あの値段だったら、それもしょうがない・・・」と思えるようになりました。

 製作者やメーカーのネームバリュー、パーツや装飾の程度・・・などによって、弓の価格帯は非常に大きな幅があります。 しかし、基本となる弓の基本性能 がどれ位なのか・・・ということが、最も重要な原点で、それによって 弓の演奏能力 の全ては決まっていると、私は思います。

 私が、少し不思議に感じるている事例をご紹介します。

 ある弓の製作者はこんなことを言っています。 「出来上がった弓を、試奏してもらい、その状態で弓元の反りを極僅かに修正すると、見違えるように弾き易い弓に変身する・・・」。 しかし、 今回の私の結論では、これは
「思いすごし」 にすぎないような気がします。 材料が持っている本々の強さから決まる「振り子振動の振動数」 という弓の基本性能 が、反りを僅かに修正したから・・・と言って 劇的に変わるものではない からです。 ちょっと無理をして、弓の張りを少し強くしてやれば、演奏感は変わります。 職人さんのマジックにはくれぐれも注意がいるかも知れません。

 別な事例をご紹介します。 ドライカーボンファイバー製の Arcus Bow は確かに優れた弓だと思いますが、その装飾の程度で価格帯に4−5倍の開きのある品があります。 各々に、例えば「きわめて芳醸な音」「卓越した音量」「力強く豊かな音」・・・などと特性が語られてランク付けされていますが、何がどう違うのか意味不明です。  その一方で、スティックの弾力性、反り、重量などはすべてのグレードとも均一で演奏性能はどれもほぼ同じ・・・と記されています。 と言うことは、スティック自体はすべて同じ製造方法で均一に作られているものと思います。 それで、装飾を変えることで音色に違いが出る・・・と云うのは大変不思議な話です。 弓の基本性能 が同じであれば、弓によって音の違いがある・・・とは思 えません。 もし音が違うとしたら、 それは、弾き手の腕の良し悪しだけで決まるはずです。

 弓の装飾・・・洋白かシルバー、それとも金・・・、一重飾りかパリジャンアイ・・・そのような装飾のグレードも弓が贅沢品であれば選ぶポイントであることは間違いないとは思いますが、何と言っても大切なことは、それに見合う
弓の基本性能 が伴っているか・・・をよく見極めて弓選びすることが大切と思います。 Arcus Bow が言う「演奏性能はどれもほぼ同じ・・・」と云うのは何とも解せません。

  もうひとつ別な事例をご紹介します。 ある弓メーカーの Web site に、材料の選定に当たって、「材料の強度」や「音の伝搬性の良さ 」を比較して選別しグレード分けして弓を作っている・・・というコメントがあります。 強度(曲げ強さ)は言うに及ばず高い材料の方が優れた弓が作れると思いますが、音の伝搬性の良さ・・・は、むしろ音の伝搬性 の良くない材料の方が音は良くなる・・・と私は考えます。 弓のスティックが振動してしまうと、それは「弦の音を食べてしまう」ダンピング作用が働きます。 この現象は不思議に思われるかも知れませんが、こちらでご説明しました。 Arcus Bow のような材料はスティック内部の音速は木材より早く高い周波数帯でのスティックの振動はウッドボウより大きいと思います。 木材であれば強度(曲げ強さ)の高い材料が良いことは分かっていても、その結果、音の伝搬性も高い材料になって しまっているので、それは、必要悪・・・だと思います。  Arcus Bow の場合は中空(肉厚 0.5mm程度)なのですから、重量が増えない程度に中にダンピング材のコーティングでも施して、スティック自身の振動が発生しない工夫をしたら、間違いなくウッドボウを凌駕する新素材の弓になった・・・と思います。 この 「弓の力学」  を Arcus が見て工夫してくれたら嬉しいですね。
 弓と云うのは、弓が響いて音を出しているのではなく、単に弦を振動させ続けているのですから、自分の振動で
「弦の音を食べ ちゃう」のでは、楽器本体からは良い音は出なくなってしまいます。

  「弓の力学」  の結論は一つ、 それは、良い弓 の基本性能 とは、「振り子振動の振動数 fo が高い弓」 ということになりました。 それは、こんなジグ があれば、誰でも容易に比較はできます。 製作者やメーカーの方が、 「弓の力学」  の結論にご賛同いただけるならば、お店で販売される弓の値札に、「振り子振動の振動数 fo の数値」 が一緒に表示される日が来るかも知れません。 買う人は、その数値と自分の懐具合と相談して品物を決めることができるようになります。

 ひとつだけおことわりがあります。 「振り子振動の振動数 fo が高い」 と言う状態は、上のように弓の毛をどんどん張ってゆけば、それにつれて「高い」 値とはなりますが、張り過ぎた弓は大変に弾き難いものです。 ですから、反りの残っている適度な張りの状態で「振り子振動の振動数 fo が高い」 値のもの・・・、
 すなわち、強度(曲げ強さ)の大きなスティック材料で作られたものでなければ
基本性能の良い弓 とは言えません。

 さすがに、
J.P.Gabriel G-30 (made in Germany)  では  fo=28.6 Hz  という数値で、テストしたウッドボウの中では最高点がつきました。 この価格帯であれば、非の打ちどころがない弓の一つ・・・と言えると思います。
 もうひとつは、
Carbow (made in France)  です。 Arcus Bow (これも良い弓ですが) の様に奇をてらったところのないカーボンファイバー製の弓です。 さすが フレンチボウ伝統のフランスのメーカー製で、限りなくウッドボウの特性に近づけて作られています。値段はJ.P.Gabriel G-30 (made in Germany)  の半額程度ですが、性能・演奏感覚はそれに匹敵します。 カーボンファイバー製・・・と言うと、まだ眉をしかめる人が多いように思いますが、偏見を捨てて、性能を信じて一度使ってみると、今までの自分の弓は「何だったんだろう・・・」と、きっと思われると思いますよ。 これが、ハイテク・・・というものだと実感しました。

  「弓の力学」  が貴方の弓選びの一助になって頂けたら幸いです。

 この  「弓の力学」  は、すべてチェロ弓で検討していますが、それは、弓として最も力強い演奏が求められるチェロ弓が検討対象として一番ふさわしいと考えたからです。
 しかし、バイオリン・ビオラ弓でもまったく同様の考え方で品定めはできます。 その場合、バイオリン・ビオラ弓の、
「振り子振動の振動数 fo は、チェロ弓より若干低い値となります。

 「自分に合う弓かどうか試してみたい・・・」と言う声をいただくことがありますが、 基本性能の良い弓 に自分の腕を合わせてゆく・・・これが上達の基本ではないかと思います。
 それは、楽器本体でも同じですよね。 良くない楽器に幾ら自分を合わせても、良い演奏は生まれないと思います。

 終りに、今回掲載した内容に、疑問点、あるいは、「これは間違っている・・・」と言うような点がありましたら、是非お気軽にご意見などを、こちらから、お寄せ頂ければ幸いです。  また、大学や企業の研究部門でこの種の研究をなさっておられ方がありましたら、是非ともご意見・ご感想を頂ければ幸いです。

 お読み頂きまして、有り難う御座いました。

 2007-8-28 工房ミネハラ 原田峰雄

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Mineo Harada

Updated:2008/12/12

First Updated:2007/8/28