弓の力学 (8)

   第3章 弓のスティック振動

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 弓の スティック振動・・・何か影響はあるのでしょうか・・・ 

スティックがこんな風に曲がっている・・・・・・・・信じられますか

スティックが振動する・・・?

それは、弓の性能に影響するのでしょうか。

あなたの弓の 振動モード・・・ ???

良い音が出せる弓ですか

 

スティック自身、どんな振動をしているのでしょうか・・・

こちらの章で、毛の張ってない状態の スティックの振動を調べました。 それは、スティックの材料の、縦弾性係数 E や 断面2次モーメント I の数値を求めることが目的でした。

 

そこで分かったことは、 スティックはとても良く振動する ・・・と言うことでした。 硬い材料で出来ている棒・・・こういうものは、よく振動するからです。

さらに、そこで分かったことは、1次モード、2次モード、3次モード・・・という様に、振動数の高い所にも振動のピークが表れている・・・と言うことでした。 

 

Sandner の弓について、もう一度、その時のデータを眺めてみましょう。 下の 図 23 スティック振動の違い の上段の 毛張り なし が、スティックだけの時の、スティックの振動の周波数分析でした。 2次モード の振動数は 202 Hz  でした。

図23 スティック振動の違い

Cello Bow

材質

状態とサウンド

スティック振動波形スティック振動の周波数分析

Sandner

made in Germany

Pe 毛張り なし

毛張り あり

これに対して、こちらで 振り子振動 の計測を行った際に、スティック自身の振動も一緒に計測しました。 そのデータは 、上の 図 23 スティック振動の違い の下段の 毛張り あり です。

 

この スティック振動の振動数は、周波数分析でわかるように、200 Hz 付近大きなピークを示す振動はなく、もっと低い 150 Hz 付近の振動が発生しています。

  何故、スティックの振動数が変わったのでしょうか・・・不思議です 

 

当然、弓というのは毛を張った状態で使うものですから、毛張り あり の状態のスティック振動の振動数を調べる・・・と言うことは意味あることと思います。

 

その振動の状態も、何らかの点で、 弓の性能   に影響するかも知れない・・・とも考えました。


スティックの低次の振動モードを探ると、全貌が分かる・・・

スティックの毛を張った状態で現れる、低い振動数の振動 低次の振動モード について検討を進めることとしました。

 

こちらの章で、毛の張ってない状態の スティックの振動を調べた時に、

 

四番目と五番目の音は、別な解析に使用するために、弓の毛を張った状態で、スティックを叩いた時の振動波形です。(この章では調べません)。 

 

としておいた、四番目と五番目の音 について調べてみました。

 

その結果を下のデータ写真に示します。 これによると、毛を張ってない状態の スティック振動の 1次モードの振動数 70 Hz よりもっと低い所に振動成分が現れています。 また、100 Hz から 400 Hz の間に、新たに別な振動成分が現れていることもわかりました。

 

すなわち、弓の毛を張った状態のスティックは、 シンプルな棒の振動  ではなく、さらに複雑な振動モードが重畳していることがわかりました。

 

下のデータ写真に示した、毛を張った状態(但し、毛は弦に当ててない状態)のスティックの振動成分は、上の 図23 スティック振動の違い の、毛張り あり に示した振動成分に似ていると考えられます。 詳しくは、もう少し検討してみます。

 

 

こちらの章で、毛の張ってない状態の スティックの振動を調べた時に、機械工学便覧 に紹介されている 棒の横振動 の振動数を導き出す公式を紹介しました。 こちらをご覧ください。

 

実際の弓の場合は、スティックの端 (弓先、あるいは、フロッグ) に毛が接続され、弓の毛が弦に当たった状態で振動することから、下の 図 24 毛張り状態の スティックの振動モード に示したように、スティックの 両端が自由ー自由 の場合に比べて

 振動数係数 λ の値が小さくなり、実際のスティックの振動数成分には 低い振動数が現れる ・・・と仮定しました。

両端が自由ー自由 の場合 振動数係数 λ ・・・ 4.730
両端が
支持ー自由 の場合 振動数係数 λ ・・・ 3.927
両端が
支持ー支持 の場合 振動数係数 λ ・・・ π ( 3.14 )

 

この、両端が支持ー自由 と、両端が支持ー支持 の場合に関して、スティックの振動数を計算してみました。 この場合、材料のデータは、 こちらの章で、 で求められている、縦弾性係数 E と 断面2次モーメント I の数値を使用し、弓の重さは フロッグの重量などを含めた 全重量  とし、スティックの長さは スティック全長ではなく、 毛の長さに相当するスティック長  と仮定して計算しました。

 

その結果を、下表に示します。

表8 Sandnerスティック振動数計算結果 単位:Hz

振動次数 1 2 3
両端が支持ー自由 54 217 489
両端が支持ー支持 35 139 313

 

この計算結果では、スティックの振動には、100 Hz から 400 Hz の間に、幾つかの振動成分が現れることが推定できました。

図24 毛張り状態の スティックの振動モード

本当に、表8 に示したような、100 Hz から 400 Hz の間の振動成分が現れているのでしょうか。

表8 Sandnerスティック振動数計算結果 単位:Hz

振動次数 1 2 3
両端が支持ー自由 54 217 489
両端が支持ー支持 35 139 313

実際のスティック振動波形から、それを検証してみました。

 

下の 図 25 毛張り状態の Sandner スティックの振動モード を見ると、毛のあたる位置 x によって、各振動モードでのピークの現れ方には違いがあるものの、 両端が支持ー自由 や、両端が支持ー支持 として計算された振動成分の振動が、実際にも発生していることが検証できました。


ここで、各モードの 1次の振動数 (
35 Hz や 54 Hz など) は非常に低い振動数であり、 実際のスティックの振動では、ほとんど目立たない成分です。

 

これらの他にも振動成分は現れており、実際にはもっと多くの振動のモードが存在していると考えられますが、顕著な支配的なものではないように思われます。

 

この Sandner の場合、毛のあたる位置 x に関係なく、 どの位置でも目立つ顕著な支配的な振動成分  は、  スティックの 1次モード  である 70 Hz 付近の振動成分と、 支持ー支持 の 2次モード   の 140 Hz 付近の振動成分が顕著であることがわかりました。

図25 毛張り状態の Sandner スティックの振動モード

毛のあたる位置
x

状態とサウンド

スティック振動波形スティック振動の周波数分析

0 毛張り あり

0.25 毛張り あり

0.5 毛張り あり

 

0.75 毛張り あり

 

表8 に示したように、100 Hz から 400 Hz の間の振動成分が、実際のスティックに現れている・・・ということが分りました。

表8 Sandnerスティック振動数計算結果 単位:Hz

振動次数 1 2 3
両端が支持ー自由 54 217 489
両端が支持ー支持 35 139 313

 

ということは、このページの冒頭に示した図のように、

 

 演奏中の弓は、複雑に曲がって振動している・・・  

 

ということになります。・・・ ほんの微小な量ですが 

 次章では、全ての弓の振動数の計測結果を示します・・・ 


この続きは、続き( 9)をご覧下さい

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工房ミネハラ
Mineo Harada

Updated:2009/10/13

First Updated:2007/8/28