ギターの力学

ギターフレットの位置の割り出し

 ■フレット位置は、どのように決まる

 基準スケール長とフレット位置
 


Mother-of-Pearl のインレイの施された素晴らしいギターです。 きっと、素晴らしい音のギターだと思いますが、

果たして、皆様が良く悩む、
フレットを押さえた時に、音程が僅かに狂ってしまう・・・「フレット音痴現象」 は無いでしょうか。 少し、気になります。

今回のこのシリーズは、「フレット音痴現象」 でお悩みの、アコースティックギターファン にお届けします。

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図1 アコースティックギター

 アコースティックギター は、沢山のパーツで作られています。 今回、このシリーズで焦点を当てるパーツは、NUT, FRET, SADDLE, BRIDGE です。たったこれだけのパーツですが、ギターでは最も重要なパーツなのです。

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ギターのフレット位置は、どのように決められているのでしょうか。


 

工房ミネハラでご紹介しておりますギター製作キットでは、指板(フィンガーボード)のフレットを打ち込むための溝が彫られたものや、キットによっては、予めフレットワイヤーが既に打ち込まれた指板(フィンガーボード)などがセットにになったものをご提供しております。

これは、初めてギターを作られる方では、専用の道具が揃わないと正確なフレット位置を加工することが難しいためです。

 

ギター製作に少し慣れてくれば、自分でもフレット溝を加工することも出来ます。

上の写真をクリックしてご覧下さい。 これは、FRET RULE (フレット定規)として市販されている、一種の定規です。

60cmよりちょっと長い定規ですが、左端の方に NUT と言う位置があり、#1,#2,#3・・・と言う番号で印が付いています。 右端の方には、E string (1) と言う位置があります。

この定規には、4種類のギターのフレット位置と、ナット、サドル部の寸法が印されています。

 

▲ STEEL-STRING 24- 27/32" を見て見ましょう。 ギターフレットの位置を決める時に、始めに決める長さを、基準スケール長 と言います。 STEEL-STRING 24- 27/32" と言うのは、下図の基準スケール長が、24- 27/32" (631mm)のギターと言うことです。 この定規の、#12 の位置を、NUT から計って見ますと、正確に、315.5mm ありました。 こちらをご覧下さい。

 

そうです。 #12 の位置、すなわち、第12フレットの位置は、基準スケール長 の真ん中の位置になっています。 弦の長さが半分になれば、音は1オクターブ高くなる・・・と言うことは、弦楽器であるギターリストの貴方なら、すぐにご理解して頂けると思います。

 

ところが、#12 の位置から、E string (1) と書かれている位置までの寸法は、約 318.5mm ありました。  こちらをご覧下さい。

何故、NUT から#12 までの寸法より、#12 の位置から、E string (1) までの寸法の方が長いのか???・・・は、後ほどご説明するとして、

ここでは、第1フレット、第2フレット、・・・などの位置は、どのように求められるのか・・・を、ご説明します。

 

図2

 

皆様は、平均律 と言う言葉を、どこかで耳にしたことがあると思います。 バッハ作曲の、「平均律クラヴィーア曲集」などと言う曲もありますよね。

1オクターブを均等な12の半音に分けた音律 これを、平均律 (正確には、12等分平均律と言う)と言います。

(注) 正確には、バッハ作曲の、「平均律クラヴィーア曲集」は、ギターのような 12等分平均律 ではありません。

ギターのように、どこのポジションででも、どんな調の曲(コードも)を弾くことがもとめられる楽器では、フレットは12等分平均律に合う位置に設けることが必要です。

 <ここ>

第1フレットを押さえた場合は、開放弦の音の半音上の音、 次に第2フレットを押さえた場合は、第1フレットを押さえた時の音の、さらに半音上の音・・・

この動作を12回やって、第12フレットを押さえた時の音は、開放弦の音の1オクターブ上の音・・・これは、振動数が2倍になった事です。

それでは、1回目の、第1フレットを押さえた時の音は、開放弦の音の振動数に対して、どれだけ高い振動数の音になっているのでしょうか。

上の、<ここ> を、良く頭にいれて下さい。

一つのフレットを上にすると、どれだけ音の振動数が高くなるか・・・と言う値を、 とします。 開放弦の振動数を、 とした場合、

第1フレットを押さえた時の音は、  f ・N  となります。

第2フレットを押さえた時の音は、  f ・N・N  となります。

第3フレットを押さえた時の音は、  f ・N・N・N  となります。 これをどんどん計算して、

第12フレットを押さえた時の音は、  f ・N・N・N・N・N・N・N・N・N・N・N・N となります。 

そうです、第12フレットを押さえた時の音は、開放弦の振動数、 に、 を12回掛けた値になります。

この動作を12回やって、第12フレットを押さえた時の音は、開放弦の音の1オクターブ上の音・・・これは、振動数が2倍

ですので、  f ・N・N・N・N・N・N・N・N・N・N・N・N =  2・f  と言うことです。

 N  を12回掛けた値は、  2    

すなわち、 は、2の12乗根 と言う値になります。

 N  = 1.0594631 と言う数値が求まりました。

 

(注) 平均律 の計算に、2の12乗根 の数値を最初に用いたのは、ステヴィン S.  Stevin (1596) (新訂 標準音楽辞典より)

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弦の音の振動数は、弦の長さに反比例する・・・と言うことも、皆さん、ご存知と思います。 そうです、弦が短くなれば、音は高くなる・・・と言うことです。

さて、第1フレットの位置は、どのようなところになるのでしょうか。

 

第1フレットを押さえた時の音は、開放弦の音の振動数に対して、1.0594631 高い振動数の音になっているのですから、弦の音の振動数は、弦の長さに反比例する・・・とすれば、第1フレットの位置で、弦の長さは開放弦の長さに対して、1/1.0594631 = 0.9438743 になっていれば良い・・・と言うことになります。

第2フレットの位置。 これも同様です。 弦の長さは開放弦の長さに対して、1/1.0594631×1.0594631 = 0.8908987 になっていれば良い・・・と言うことになります。

第12フレットの位置。 これも同様に、1.0594631 を12回掛けた値は、  2  ですので、1/ = 0.5 の位置と言うことが分かりました。

これで、基準スケール長 を決めれば、各フレットの位置が計算で求まることになりました。 

冒頭でご紹介した、FRET RULE (フレット定規)は、4種類の基準スケール長 に対して、各フレットの位置を印した定規だったんです。

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ギターの基準スケール長とフレット位置

 ギターの寸法を決める時に、最初に決める数値が基準スケール長 です。 この数値は、ほぼ弦長と考えて良い値ですが、実際の弦長は僅かに補正されますので、少し違ってきます。

基準スケール長 は、フレットの位置の寸法を決めるための数値です。

基準スケール長 648mm として、ナットからフレット位置までの寸法と、弦の振動長 を計算してみました。

表1

フレット# 振動数比 弦長比 基準スケール長 648mm 、
ナットからフレット位置までの寸法 (mm)
基準スケール長 648mm、
弦の振動長 (mm)
0(ナット) 1.00000 1.00000 0 648.00
1.05946 0.94388 36.37 611.63
1.12246 0.89090 70.70 577.30
1.18921 0.84089 103.10 544.90
1.25992 0.79370 133.68 514.32
1.33484 0.74915 162.55 485.45
1.41421 0.70711 189.79 458.21
1.49831 0.66742 215.51 432.49
1.58740 0.62996 239.79 408.21
1.68179 0.59460 262.70 385.30
10 1.78180 0.56123 284.32 363.68
11 1.88775 0.52973 304.73 343.27
12 2.00000 0.50000 324.00 324.00

第1フレットの位置は、開放弦の振動数に対して、振動数比 が1.05946 となる位置ですので、弦の長さは、1/1.05946 となる必要があります。 1/1.05946 の値を、弦長比と言います。

ナットからフレット位置までの寸法は、基準スケール長  ×(1−弦長比) として計算します。

すなわち、第1フレットの位置は、648*(1-0.94388)=36.37 となります。

第13フレットより上のフレットについては、第12フレットを基準にして同様に計算できますので、省略しました。

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下図のような、作図の方法でもフレット位置を割り出すことが出来ます。 大変、面白い、理にかなった方法です。

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皆さんのギターのフレット位置は、正しく切られていますか。 基準スケール長  が分かれば、上の係数を使って、正しい位置を計算で求めることが出来ます。

基準スケール長  が分からない・・・と思いますが、これは、ナットから第12フレットまでの寸法を測って、その値の2倍とすれば良いと思います。

是非、貴方のギターのフレットの位置をチェックして見て下さい。

多分、相当、正確にフレットは切られているもの・・・と思います。

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それなのに、何で、このギターは 「フレット音痴現象」 なんだ・・・とお悩みの方・・・

次章からは、その秘密を探ります。 ご期待下さい

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Updated:2009/10/6

First Updated:2004/1/30