ギターの力学

コーヒーブレークタイム

皆さんは、イタリアのピサ、ピサの斜塔から、重い球と軽い球を同時に落として、どちらも同時に地面に落ちる・・・と言う実験をしたと伝えられている、あの、ガリレオ・ガリレイ をご存知と思います。

振り子時計を作ったり、天体望遠鏡を作ったり、「それでも、地球は回っている」と、地動説を唱えた、あの偉大な科学者です。


ここでは、ガリレオ・ガリレイ の話しではなく、彼のお父さんの、Vincenzo Galilei (1520's-1591)をご紹介します。

お父さんが、今のギター作りに関係していた・・・と言うことが分かりました。
Vincenzo Galilei 
は、科学者であったと同時に、若い頃からリュート奏者だったようです。 音楽では、音律の研究で、様々の成果を残していていますが、その話が本論では有りません。リュート奏者だった彼は、リュートの (ギターも同じですが)  フレットの位置を決める法則を導きだしたのです。


その話に入る前に、ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ド・・・と言うスケールはどうやって出来て来たかをお話します。

これは、紀元前 ギリシャの ピタゴラス が発見したと言うことになっています。彼は、一本の弦を張った、一弦琴 を作り、 弦の丁度半分のところを軽く押さえて弾く(ハーモニックスを出す)と、1オクターブ高い、ド の音がでる。
弦の2/3のところを軽く押さえて弾くと、5度上の、ソ の高い音がでる。
弦の1/5のところを軽く押さえて弾くと、3度上の、ミ の高い音がでる。

とう言う 法則を発見しました。

では、始めの音を ソ にして、上と同じ事をやって見ると、 弦の丁度半分のところを軽く押さえて弾くと、1オクターブ高い、ソ の音がでる。
弦の2/3のところを軽く押さえて弾くと、5度上の、レ の高い音がでる。
弦の1/5のところを軽く押さえて弾くと、3度上の、シ の高い音がでる。

こういう実験を繰り返して行くと、今 私たちが使っている 1オクターブの中の、半音を含めた 12個の全ての音が作り出せるのです。

この図は、上で、弦の2/3のところを軽く押さえて弾くと、5度上の、ソ の高い音が出るといいましたが、 そのような音程を 純正5度 と言います。

C を基準にして、純正5度を高い方に積み重ねて行くと
C−G−D−A−E−B−F#−C#−G#−D#−A#−E# となり、半音階に含まれる12音全てが揃います。

C を基準にして、純正5度を低い方に積み重ねて行くと
C−F−B♭−E♭−A−D♭−C♭−F♭−・・・

外の円と中の円の点線で結ばれている音は、異名同音と呼ばれます。 上のようなサークルは、5度圏 と呼ばれています。

このような、倍音の関係の音から、ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ド の音律を ピタゴラス が作りました。

それは、 ピタゴラス音律 と呼ばれています。

この音律は、詳しい説明は省略しますが、ギター や リュート などのように フレット を持ち、 どこのポジションでも、比較的正しい音階の演奏が求められる楽器には向いていないものでした。


冒頭に述べました、Vincenzo Galilei は、リュートを自分でも演奏し、音楽にも精通していましたので、 フレット楽器にもふさわしい平均的な音律・・・すなわち、平均律の研究 をしたものと思います。

Vincenzo Galilei が 1581年に考案した平均律は、 半音を 音程比 17:18 ( 約 99 CENT ) にとるものでした。

基準スケール長 648mm のギターと仮定して、この音程比 17:18 ( 0.94444 ) を使って、フレット位置を計算して見ます。

  Vincenzo Galilei の考案した平均律で計算 現在の平均律で計算
FRET # 振動数比 弦長比 フレット位置 (mm) 弦の振動長 (mm) 振動数比 弦長比 フレット位置 (mm) 弦の振動長 (mm)
0   1.00000 0 648.000 1.00000 1.00000 0 648.000
1   0.94444 36.000 612.000 1.05946 0.94388 36.368 611.632
2   0.89197 70.001 577.999 1.12246 0.89090 70.697 577.303
3   0.84242 102.112 545.888 1.18921 0.84089 103.100 544.900
4   0.79562 132.439 515.561 1.25992 0.79370 133.682 514.318
5   0.75142 161.082 486.918 1.33484 0.74915 162.549 485.451
6   0.70967 188.133 459.867 1.41421 0.70711 189.794 458.206
7   0.67024 213.681 434.319 1.49831 0.66742 215.513 432.487
8   0.63301 237.810 410.190 1.58740 0.62996 239.785 408.215
9   0.59784 260.599 387.401 1.68179 0.59460 262.696 385.304
10   0.56463 282.121 365.879 1.78180 0.56123 284.323 363.677
11   0.53326 302.448 345.552 1.88775 0.52973 304.734 343.266
12   0.50363 321.646 326.354 2.00000 0.50000 324.000 324.000

この計算結果を見ると、大変重要で、効果的な事実が分かります。
FRET #0 での開放弦の長さは、両方とも、648.000 mm と同じですが、
Vincenzo Galilei の方の、フレット位置 は、現在の平均律で計算された値より、約1%程度小さくなっています。
別な見方をすると、弦の振動長 は、全てのフレットポジションに於いて、現在の平均律で計算された値より大きくなっています。

と言うことは、今のギターの音より、低い音になってしまうのでしょうか。 いや、そうではなかったのです。

 

■第2章 サドルは、何故、傾いているのでしょうか

その3:フレット位置での張力・ひずみ と 振動数 上昇の関係

で、ご説明したように、弦がフレットに押さえられると、張力が増加して、音程が上がってしまう・・・と言う現象を説明しました。
現在は、その音程の狂いを直すために、サドル (Saddle) の位置を変えて、弦長を長くして補正すると言うことを述べました。

 

これと同じ効果を得るために、Vincenzo Galilei は、当時のガット弦のリュートに応用したのです。


上の表の、フレット位置 (mm) は、下記のように計算できます。
 

基準スケール長 648mm のギターの場合、648 / 18 = 36.000 これが第1フレットの位置です。

648 mm から、36 mm を引くと 残りの弦長は、612 mm  この値を、また 18 で割って、第1フレットの寸法に加えると、第2フレットの位置が求まります。
36 + ( 648 − 36 ) / 18 = 70.000

第3フレットの位置は
70 + ( 648 − 70 ) / 18 = 102.112

この計算を行う時に、定数として使う数値が、18 と言う数値です。 Vincenzo Galilei は、フレットの位置を割り出すために、18 と言う数値を考案したのです。

 

このフレットの位置を割り出し方法は、 Rule of Eighteen  (18 のルール) と呼ばれ、 数世紀に亘って、ガット弦、ナイロン弦ギターのフレット割り出しに使われてきました。


(注) 平均律 の計算に、2の12乗根 の数値を最初に用いたのは、ステヴィン S.  Stevin (1596) (新訂 標準音楽辞典より)


現在のギター製作では、18 と言う数値は使わず、別な値を使います。

理由は、多分、スチール弦のギター、更に、エレキギター、エレキベースなどが登場して、 使用する弦も、多岐にわたるようになったため、 フレット位置の計算は、完全に、現在の平均律 (1オクターブを、1,200 CENT とし、半音を 100 CENT とする) を使用し、 フレットでの音程の狂いは、サドル位置 を補正して修正する方法が用いられるようになったと考えられます。


では、どういう数値を使えば、どんな弦長のギターでも、簡単にフレット位置を計算できるでしょうか。

■第1章 ギターフレットの位置の割り出し

で、

と言う数値を説明しました。

これは、半音高い音の振動数比です。

この関係から、現在は Fret Factor = 1.0594631 / 0.0594631 = 17.817152

と言う数値を使います。

少数点以下は、せいぜい 3桁あれば良いので、

Fret Factor = 17.817

この数値を使って、上で説明した、Vincenzo Galilei の 18 と言う数値と同じ計算をすると、 フレットの位置が求まります。
基準スケール長 648mm のギターの場合を、計算してみて下さい。
上の表の、現在の平均律で計算の、フレット位置 の値が求まると思います。

 

この
Fret Factor = 17.817

と言う数値が、 18 に近いので、この数値を用いた計算方法を、Rule of Eighteen  (18 のルール) と呼んでいる人もいるようですが、

正確には、Vincenzo Galilei の考案した 18 を用いる方法が、Rule of Eighteen  (18 のルール) なのです。


実際のギターを作る時には、下図のような、作図の方法でもフレット位置を割り出すことが出来ます。

大変、面白い、理にかなった方法です。


では、引き続き、お読み下さい。

ギターの力学

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工房ミネハラ
Mineo Harada

Updated:2009/10/6

First Updated:2004/2/7