Domingo Esteso
1930

Jose Ramirez V
1960
 ギターの力学

コーヒーブレークタイム

クラシックギターの不思議


前回の、コーヒーブレークタイム にて、ギターフレットの割り出しは、 古くは、Vincenzo Galilei の考案した、フレットの位置を割り出すために、18 と言う数値をう Rule of Eighteen  (18 のルール) を使って来た・・・と説明しましたが、上のギターのような、20世紀に入ってから作られたギターは、
現在の平均律で計算されていると思われます。

その場合、18 ではなく、Fret Factor = 17.817 を使うことも、前回説明しました。


ギターのフレット位置データは、なかなか簡単に入手できるものではありませんが、 幸いなことに、昭和50年7月 ( July, 1975 ) に、現代ギター社から出版された、「現代ギター 7月臨時増刷 ギターの知識」 に、ギターのフレット位置データが掲載されていました。

今回、この ギターの力学  を公開するに当たって、Domingo Esteso (1925年作) と Jose Ramirez V(1965年作) のデータがありましたので、皆様にご紹介します。

(注) ギターのフレット位置データは、まだ他にも掲載されていますが、ここでの紹介は、省略しました。


Domingo Esteso (1925年作) と Jose Ramirez V(1965年作) のフレット位置データと弦長は下表の通りです。

 

Domingo Esteso (1925年作)

Jose Ramirez V(1965年作)

FRET #

フレット位置 (mm)

フレット位置 (mm)

0

0

0

1

35.8

36.9

2

70.2

72.5

3

102.2

105.5

4

132.8

136.8

5

162.0

166.5

6

189.5

194.3

7

215.2

221.0

8

239.4

245.6

9

262.1

269.0

10

283.9

291.4

11

304.5

313.0

12

324.5

332.0

 

  Domingo Esteso (1925年作) Jose Ramirez V(1965年作)
弦長 650 mm 665 mm

このデータを見ますと、

Domingo Esteso (1925年作) の #12フレット の寸法の2倍は、649 mm

Jose Ramirez V(1965年作) の #12フレット の寸法の2倍は、664 mm

で、両方とも、弦長は、その値より  1mm 長く設定されていますので、

■第2章 サドルは、何故、傾いているのでしょうか

その3:フレット位置での張力・ひずみ と 振動数 上昇の関係

で、ご説明したように、弦がフレットに押さえられると、張力が増加して、音程が上がってしまう・・・と言う事を防ぐために、 サドル (Saddle) の位置を変えて、弦長を長くして補正していることが窺えます。
さらに、冒頭の、
Jose Ramirez V 1960年作 の写真をクリックして、拡大写真を良く見ていただくと、サドル (Saddle) が、僅かに傾けられていて、第6弦 側の弦長が長めに設定されていることも窺えます。
 

ただ、フレット位置の寸法に、ちょっと不思議なところが見受けられますので、もう少し中味を良く見て見ましょう。


この二つのギターについて、#12フレット の寸法を基準にして、他のフレットの位置を、現在の平均律で計算 して見ましょう。

平均律フレット位置 は、( #12フレット の寸法の2倍 ) ÷ 17.817 と繰り返して計算出来ます。
便宜上、この方法を、 
"Rule of Eighteen" と称します

  Domingo Esteso (1925年作)
FRET # 実際のフレット位置 (mm) 平均律フレット位置 (mm) 寸法差 (mm) フレット寸法短縮率 (%) 音程(セント) (CENT)
0 0 0 0 0 0
1 35.8 36.42 -0.62 -1.7  98
2 70.2 70.81 -0.61 -0.9 198
3 102.2 103.26 -1.06 -1.0 297
4 132.8 133.89 -1.09 -0.8 397
5 162.0 162.80 -0.80 -0.5 498
6 189.5 190.09 -0.59 -0.3 598
7 215.2 215.85 -0.65 -0.3 698
8 239.4 240.16 -0.76 -0.3 797
9 262.1 263.10 -1.00 -0.4 897
10 283.9 284.76 -0.86 -0.3 997
11 304.5 305.20 -0.70 -0.2 1097
12 324.5 324.50 0 0 1200

 

  Jose Ramirez V(1965年作)
FRET # 実際のフレット位置 (mm) 平均律フレット位置 (mm) 寸法差 (mm) フレット寸法短縮率 (%) 音程(セント) (CENT)
0 0 0 0 0 0
1 36.9 37.27 -0.37 -1.0  99
2 72.5 72.44 0.06 0.1 200
3 105.5 105.65 -0.15 -0.1 300
4 136.8 136.98 -0.18 -0.1 399
5 166.5 166.56 -0.06 0.0 500
6 194.3 194.48 -0.18 -0.1 599
7 221.0 220.83 0.17 0.1 701
8 245.6 245.71 -0.11 0.0 800
9 269.0 269.18 -0.18 -0.1 899
10 291.4 291.34 0.06 0.0 1000
11 313.0 312.26 0.74 0.2 1103
12 332.0 332.00 0.00 0.0 1200

(注) Jose Ramirez V第11フレット位置データは誤記で、312.3 が正しい値ではないかと思われますが、
昭和50年7月 ( July, 1975 ) 「現代ギター 7月臨時増刷 ギターの知識」 掲載の下記のデータをそのまま使いました。

Domingo Esteso (1925年作)

Jose Ramirez V(1965年作)

ここで、注目すべき共通点は、
何れのギターも、第1フレットの寸法が、平均律で計算 される値より、短く設定されていることです。

The distance between the nut and the first fret are 1% to 1.7% shorter than the "Rule of Eighteen" standard.

この辺に、名工たちの作るギターの 音律を正しくする秘密が隠されているような、予感はしませんか。


では、引き続き、お読み下さい。

ギターの力学

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工房ミネハラ
Mineo Harada

Updated:2009/10/6

First Updated:2004/2/8