ギターボディー 振動の力学 (8)

 第8章 ギターの音は何処から出るか

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 あなたの ギター 音の出ている様子を 目でご覧いただきます 

ギターの音は何処から出ているのでしょうか

あなたは、それをご覧になったことがありますか


 前章 までは  ギターの 共振点・共振モード について調べてきました 

 共振点  では、表板(ToP) や 裏板(Back) が強く振動していることが分かりました 

 

当然と言えば、当然です。

 

ここからは、ギターの音の出方 や、ギターの音色 と、それらの関係を調べて行きます。


特に綺麗な音を、始めに見て見ましょう  

下の 音の波形 を見ながら この  をお聴きください。

このサウンドは、  Yamaha  LS36 の、#1弦の  E4  から   E5  までを弾いた時のものです。 非常に綺麗に響いているとおもいます。

ここで、音の強さが他のものより強い G4  の音に着目して見ましょう。

 

この画像は、音楽編集のソフト Adobie Audition 2.0 で、 #1  弦の、 G4  の音の、音の波形 と、その音に含まれている周波数成分を 周波数分析 したものです。

 

二つのウインドウがあるとおもいますが、左上のウインドウは、音の波形、右下のウインドウは、その音に含まれている 周波数成分 を示したものです。

 

弾いた G4  の音に含まれている周波数成分を見ますと、基本音  393 Hz  の成分も大きく、また、 倍音  も非常に多く含まれている事が分かるとおもいます。

このような音は、  とても綺麗な音  に聴こえます。 これが、理想です。

下のグラフを思い出して頂ければ、その理由も明確に分かります。

音の波形


 

お聴きください


 振動パターンの強さ

 

 強い縞模様または全部なくなる---16 点、はっきりした縞---8 点、部分的に集まる(縞あり)---4 点、部分的な振動は見える---2 点、振動は目では見えない--1 点、

 

  モード (0)     モード (0,0)    モード (1,0)  

 

弾いた G4  の音に含まれている周波数成分を見ますと、基本音  393 Hz  の成分も大きく、また、 倍音  も非常に多く含まれている事が分かるとおもいます。

このような音は、  とても綺麗な音  に聴こえます。 これが、理想です。

下のグラフを思い出して頂ければ、その理由も明確に分かります。

 振動パターンの強さ  のグラフをご覧下さい。

  G4  の音は、 モード (1,0)   の共振点付近に有ります。 すなわち、表板(Top) は、この音の周波数に敏感に反応して、強く振動し、周囲に大きな音を発しているから、  とても綺麗な音  に鳴っています。

 

ここで、皆さん 着目して下さい。 上の  振動パターンの強さ  の得点です。 この得点は、私の独断で決めていますが、 振動は目では見えない--1 点、にランキングされている、

例えば、 #1  弦の、  E4  -  F#4  あるいは、  B4  -  E5  などの音も、 とても綺麗な   良く響く 音ですよね。  今回の実験の、紅茶の葉縞模様の強弱では特に共振などが確認出来ないようなところでも、良い音が出ている・・・と言う事になります。

 

この絵を思い出して下さい。

ギターの表板や共鳴胴は、弦の僅かな振動を、空気の大きな振動に変換し、拡大させてくれている・・・と、言うものでした。 理想的には、どんな周波数の音でも、大きく拡大してくれる事が、ハッピーです。

 


さて、ここで、ちょっと横道にそれます。

下は、こちらでご紹介しております、私がスタジオレコーディングに使用しているモニター・スピーカーと、その周波数応答特性を示したグラフです。


モニター・スピーカー
HITACHI Lo-D HS-400

大変古い物ですが、名器です

このモニター・スピーカーの場合、100 Hz から、20,000 Hz 程度まで、ほぼ同じ音圧(強さ)の音を出してくれる事が分かります。 ギターもこんな特性で有れば理想的なのですが、構造や大きさの点で、そういうことにはなっていません。

ギターについて見て見ましょう。

下の画像は、こちらでご紹介した Yamaha  LS36 表板Top) を叩いた時の音の 周波数成分 を示したものです。

こちらのページで示したものと同じですが、探る位置を少し早めて、高い周波数の部分が良く分かるようにした画像です。

こちらのページでは、表板Top共振周波数は、 107 Hz   205 Hz   371 Hz   441 Hz  と計測されました。 実際は、もっと上の周波数も有りますが、省略します。と述べましたが、

 

 「実際は、もっと上の周波数も有りますが、省略します。」

 

の部分は、大切なことです。

 

上の画像・・・このような図を、「周波数特性・・・  Frequency Response  」と言いますが、 高域   と表示した部分・・・この部分の波形にも、 細かなギザギザ  が見られます。 このような高い周波数の部分にも、 波形に細かな山  が沢山あります。

 この山の頂上に当たる周波数の音は、大きく鳴る ・・・と言うことにはなりますが、  山と谷  の差は、それ程大きくはありませんので、

このギターの場合、 高域   の周波数の音は、全般的に綺麗に、良く響く・・・と言う事がいえるとおもいます。

 

この、 高域   辺りの周波数は、 #1  弦の #12フレットの  E5  より上の音ですので、ギターの響きでは、豊かな倍音 を響かせてくれている領域です。

 

上の「周波数特性・・・  Frequency Response  」のように、 高域  に、特段大きな山や大きな落ち込みの谷が無いのは、 高域   の、どの音にも良く反応する、良い楽器と言えるでしょう。 材料が良い事の証でも有ります。

 

このページの始めの方で示した Yamaha  LS36  #1  弦の、 G4  の音の周波数成分 の波形の 倍音  の部分に、 沢山の山がある ・・・のは、豊かな倍音 が響いている事を物語っています。


それでは、ギターの音の出方を まとめて見てみましょう  

下の絵は、今までに見てきた ギターの音の出方 を絵に描いてみたものです。

弦が弾かれると、サウンドボード(表板・Top)に貼り付けられたブリッジが、弦の振動をサウンドボードに機械的に伝達します。

その結果、サウンドボードが振動し、サウンドボードの振動によって、ギターの胴内の空気や、外側の空気はサウンドボードの振動で揺すられます。

 

この場合、弦の振動によってサウンドボードが振動したり、サウンドボードの振動によってギターの胴内の空気や、外側の空気が振動するような現象は、 強制振動  と呼ばれます。 要は、弦の振動に従って、サウンドボードや空気が 強制的に 振動させられている・・・と言う事です。 この状態でも、大きな音は出ます。

 

 

弦の振動数は、弾く弦によって変わります。

 #6  弦の開放弦  E2  では  82.4 Hz

 #1  弦の #12フレットの  E5  では  659.26 Hz  と、大変に幅広い範囲です。 

上の、「周波数特性・・・  Frequency Response  」の 中低域   と表示されている部分には、 4っの山  が見られます。

 この範囲が、ほぼ、 #6  弦の開放弦  E2   82.4 Hz  から  #1  弦の #12フレットの  E5   659.26 Hz  に相当しています。

 

この、 4っの山  が、ここまでに色々な角度から調べてきた、表板(Top)の共振点  です。

 

それは、このようになっていました。

周波数領域 アニメーション モード名 振動の様子  共振点の振動数  
 中低域 モード (0) サウンドホール辺りを最大にして、

表板(Top) が上下に激しく振動する

 100 Hz 付近

モード (0,0) の 1/2

 ( 107 Hz  )

モード (0,0) 表板中央部・ブリッジ辺りを最大にして、

表板(Top) が上下に激しく振動する

 200 Hz 付近

(  205 Hz )

モード (1,0) ブリッジを境にして、

表板(Top) の上半分と下半分が交互に上下に振動する

モード (0,0) の 2倍

 ( 371 Hz )  ( 441 Hz )

 高域

高次のモード 表板(Top)の特定の部分が振動する もっと高い周波数

 


中低域
 に、 4っの山    山 ( Peak )  がある・・・ と書きましたが、
 

 3っ目 の山と、 4っ目 の山は、共振点 モード (1,0) 付近にあり、ギターの構造的 なものから、山が2っに割れているものと考えられます。
 

 

従って、マクロに見ると、 中低域   には、3つの共振モード  があり、

 

そのモードと共振周波数は、モード (0)  107 Hz モード (0,0)  205 Hz  モード (1,0)  371 Hz   441 Hz  になります。

 

ギターから出る音の大きさ(強さ)は、この 3つの共振モード  と大きな関係が有る事は、すでに分かっています。

 

共振点  付近、あるいは、共振点  の振動数の弦が弾かれた場合は、表板(Top) や中の空気が共振して、表板(Top) を大きく振動させ、外の空気を振動させたり、中の空気に大きな振動を引き起こし、それが、サウンドホールから大きな音となって外に放散されます。 ですから、共振点  では、特に大きな音になっています。

 

共振点  付近で無い弦が弾かれた場合は、最初に述べたように、サウンドボード自体が、 強制振動  させられて、そのサウンドボードの振動で外の空気が振動し中位の大きさの音を発します。

このとき、中の空気自身も 強制振動  させられています。

 

弦自身の振動の中に沢山の倍音がある事は、既にこちらで説明しましたが、その振動もサウンドボードには伝わっていて、その振動数でサウンドボードも振動します。 倍音の振動数が低い場合は、 中低域   の、3つの共振点  辺りになっていることも有りますし、また、倍音の振動数が高い場合は、 高域   の辺りになっています。

 

倍音の振動数が 中低域   の、3つの共振点  辺りになっている場合は、倍音によっても、表板(Top) や中の空気が共振します。

 

また、 高域   辺り振動数の音に対しては、上の表の、表板(Top)の特定の部分が振動する 共振が表板(Top) に発生します。

これは、高次のモード共振 と言われますが、紅茶の葉縞模様の実験で見られた、部分的に僅かに葉が動いていたような振動になります。

 

このように、ギターの音の出方 は、弾かれた弦の振動数 との関係で、色々なルートを辿って空気を振動させ、私たちの耳に届いていることになります。 また、その大きさ(音の強さ)も、それぞれ違ったものになっています。


弾かれた弦の音と、無関係な音もでていた・・・   えぇ・・・・そんなことがあるんだ・・・と言う感じですが。

このページの始めの方で示した Yamaha  LS36  #1  弦の、 G4  の音の周波数成分 の波形を、もう一度ご覧下さい。

 

実際に弾いた弦は、 #1  弦  G4  です。 その音の基本音は、  393 Hz  です。

通常、基本音より低い振動数の音は出てこないのが常識ですが、この音の周波数成分 には、 107 Hz   205 Hz  の音が含まれています。

 

そうです。 聡明な方なら直ぐにお分かり頂けるとおもいますが、共振点 モード (0)モード (0,0) の音が、湧き出し て鳴っているのでした・・・。

 

何故でしょうか・・・。 叩けば分かる 共振周波数・・・  を思い出して下さい。

表板(Top) をちょっと叩くだけで、叩かれて出た音には  107 Hz   205 Hz  の音が含まれていることが分かっています。 こちらをもう一度ご覧下さい。

 

叩いた程度で出るのですから、ましてや、弦が弾かれて、サウンドボードが振動していれば、表板(Top) が モード (0)モード (0,0)共振して、その振動数の音が外に出ることは、自ずと分かります。

 

この、 107 Hz   205 Hz  の音は、どの弦を弾いた時にも出ていた・・・という事が、改めて分かりました。

 

こちらの  G#3  の音の、 ピッキング直後  の 周波数成分 をご覧下さい。 基本音より低い、 107 Hz   の音がある事が、良く分かります。

また、こちらの  C4  の音の、 ピッキング直後  の 周波数成分 をご覧下さい。 基本音より低い、 107 Hz   の音がある事が、良く分かります。

  

これ等の物は、何れも、基本音より低い振動数の音ですが、基本音がこれ等の振動数より低い場合は、基本音より上の振動数の部分に、 107 Hz   205 Hz  の音が湧き出し ます。

 

すなわち、どの音の弦を弾いても、共振点 モード (0)モード (0,0) のなどの、強く共振する振動数の音が、湧き出 と言う現象が見られました。

 

この音の強さは、実際に弾かれた音のレベルに較べて小さな値ですので、耳で感じる 聴感的 には、「違った音がまじっている・・・」とは聴こえないようです。 どうぞご安心下さい。

 

この、音の湧き出し は、表板(Top) が共振しやすい・・・から、大きく発生している・・・と考えられますが、

 

聴感的 には、「違った音がまじっている・・・」 とはならなくても、実は、こちらで問題提起した、実際に弾いた音の音色を損なう・・・と言う大きな問題を含んでいたのです。


このような、音の湧き出し は、共振点 モード (0)モード (0,0)モード (1,0)共振点 全てで発生しています。

下の画像は、 #1  弦の、この の #12 フレットの  E5  の音の波形に含まれる周波数成分 を示したものです。

 

 いよいよ、次章では その核心に迫ろうとおもいます・・・ 


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ギターボディー 振動の力学 続き(9)

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Updated:2007/2/5