ハープの力学

 第2章 
ハープ弦の張力 と 
指ではじく力

red.gif (61 バイト)

ハープには色々な形の物が有りますが、基本的なパーツと構造は下図ようなの物です。

ハープ弦の張力は、使用する弦の種類(材料、太さなど)と、弦の長さによって変わります。 張力によって、音色なども微妙に変わります。

この章では、ハープ弦の張力 と、ハープ弦 をはじく力(指にかかる力)求めてみます。

ハープ弦の張力  は、図7の(3)式によって計算できます。

γは、弦の単位長さ(1cm)当りの重量、 g は重力の加速度、 l は弦の長さ、 f は弦の振動数です。

弦の単位長さ当りの重量γは、巻線弦の場合、計算で求めるのは少し厄介ですので、ここでは、ナイロンのプレーン弦のみで計算しました。

図7 ハープ弦の張力

まず始めに、弦の単位長さ当りの重量γを計算します。 通常の小型ハープでは、弦の太さは、.025" から .060" の太さのナイロン弦が使用されています。 ナイロン弦の密度を 1.15 として、それぞれの太さの弦について、1cm当りの重量γを計算した値を、表3に示します。

表3 弦の単位長さ当りの重量γ

弦太さ 単位:inch 弦の単位長さ当りの重量γ  単位:gr/cm
 .025 0.0036
 .028 0.0046
 .032 0.0060
 .036 0.0075
 .040 0.0093
 .045 0.0118
 .050 0.0146
 .055 0.0176
 .060 0.0210

22弦から29弦ハープの弦の振動数は、表4のようになっています。

表4 弦の振動数

音程 弦の振動数  単位:Hz 音程 弦の振動数  単位:Hz 音程 弦の振動数  単位:Hz 音程 弦の振動数  単位:Hz 音程 弦の振動数  単位:Hz
 f 174.60  f 349.23  f 689.46  f 1,396.90    
 e 164.80  e 329.63  e 659.26  e 1,318.50    
 d 146.80  d 293.66  d 587.33  d 1,174.70    
 c 130.80  middle c 261.63  c 523.25  c 1,046.50    
 B 123.47  b 246.94  b 493.88  b 987.77    
 A 110.00  a 220.00  a 440.00  a 880.00  a 1,760.00
 G 98.00  g 196.00  g 392.00  g 784.00  g 1,568.00

それでは、実際にハープ弦の張力を計算してみましょう。

図7の(3)式によって計算できますが、あと必要な数値は、弦の長さ l です。


図8 ハープ弦 をはじく力 (指にかかる力)

ハープ弦の張力  が分かれば、それを弾く時に、指にかかる力が分かります。

次に、それを計算してみましょう。図8の(6)式によって計算できます。

弦のどの位置を弾くかによって、指にかかる力は変わります。

たとえば、弦の真ん中辺を弾けば、弱い力で弾けますが、上のガイドピンに近い位置を弾く時は、弦の張りが強く感じられます。

弦を弾く力は、弾く位置によって変わりますので、ここでは、便宜上、弦の中央部を弾くとして計算します。

(5)式は、弦の張力 T で張られた弦の中央部を、1cm だけ横に引っ張る時に、どれ位の力を必要とするか? という、弦のバネの強さを示した バネ定数 k と言う値です。

この バネ定数 k  の値が、指が感じる弦の張りの強さ・・・と考えて頂いて良いでしょう。

この数値が大きい程、弦を弾いた時に、強く感じられます。

この式から分かることは、 弦の張力  が大きくても、弦の長さ L が長ければ、バネ定数 k は、むしろ小さくなりますので、長い弦は、弦の張力  が大きくても、弦を弾く時の力は、小さくてすむことになります。 これは、演奏していて、気づくとおもいます。

それでは、色々なハープの 弦の張力 T と バネ定数 k を、計算して見ましょう。

是非、ハープ選びのご参考になさってください。


Stoney End Harps

それでは、まず、代表例として、(米)Stoney End 社の 22弦ラップハープ Eve の弦の張力 T バネ定数 k を計算してみます。

evefnt2.jpg (8477 バイト)

この、Eve には、ハイテンションナイロン弦セット(22弦) MN1161と言う、オプション弦が有ります。 これは、標準の弦セットより、太いゲージのナイロン弦が使用されています。 従って、弦の張力は、標準の物より大きくなっています。 その違いを、図8に示します。

# 音程  周波数 (Hz)   弦の長さ l (cm)  標準の弦セット  ハイテンションナイロン弦セット 
 弦の太さ (in)   弦の張力 (kg)  弦の太さ (in) 弦の張力 (kg)
1 g  1,568.00 12.5  .025 5.71  .025 5.71
2 f 1,396.90 14.2  .025 5.85  .028 7.33
3 e 1,318.50 15.8  .025 6.45  .028 8.09
4 d 1,174.70 17.2  .025 6.07  .028 7.61
5 c 1,046.50 18.7  .025 5.69  .032 9.32
6 b 987.77 20.0  .025 5.80  .032 9.50
7 a 880.00 21.8  .025 5.47  .032 8.96
8 g 784.00 23.7  .032 8.40  .036 10.64
9 f 689.46 25.4  .032 7.66  .036 9.70
10 e 659.26 27.3  .032 7.89  .036 9.98
11 d 587.33 29.5  .032 7.31  .040 11.41
12 c 523.25 32.0  .036 8.64  .040 10.66
13 b 493.88 34.4  .036 8.89  .040 10.98
14 a 440.00 37.0  .036 8.17  .040 10.08
15 g 392.00 39.8  .036 7.50  .045 11.72
16 f 349.23 42.5  .036 6.79  .045 10.60
17 e 329.63 45.5  .040 8.56  .045 10.83
18 d 293.66 48.8  .040 7.81  .050 12.21
19 middle c 261.63 52.5  .040 7.18  .050 11.21
20 b 246.94 56.5  .050 11.57  .055 14.00
21 a 220.00 60.5  .050 10.53  .060 15.16
22 g 196.00 65.5  .050 9.79  .060 14.10

合計

167.70 合計 229.81


図8

Eve 標準弦セットの張力
Eve ハイテンションナイロン弦セットの張力

Eve 標準弦セットのバネ定数 k
(指が感じる弦の張りの強さ)

Eve ハイテンションナイロン弦セットのバネ定数 k
(指が感じる弦の張りの強さ)

この、Eve の場合、矢張り、ハイテンションナイロン弦セット の方が、張りのある、鋭い音色が楽しめるようです。

ただ、柔らかい音色を楽しむ場合は、標準弦セット を選ぶと良いでしょう。  これは、標準弦セット の音です。 お聴きください (mp3 363KB)


図9 Eve, Brittany の場合、金属弦を張るオプションが有ります。 余韻の響きの可愛らしい音色が楽しめます。

Eve Wire弦セットの張力


Eve Wire弦セットのバネ定数 k
(指が感じる弦の張りの強さ)


金属弦を張った Eve  も お聴きください (mp3 540KB)

金属弦を張った ハープは、弦の張りが強いのかと思ったのですが、意外に小さかったですね。 だから、爪でも弾けるのでしょう。


図10 Stoney End 社のハープの中で、ハイテンションで 、太く張りのある音色を楽しめるハープに、Brittany Lap Harp が有ります。

Brittany ナイロン弦セットの張力


Brittany ナイロン弦セットのバネ定数 k
(指が感じる弦の張りの強さ)


Limerick 26弦 右 Brittany 22弦

この Brittany の場合は、Eve ハイテンションナイロン弦セット  に近い演奏感覚となりますが、太く張りのある音色となります。

サウンドをお聴きください (mp3 353KB)


図11 Stoney End 社の 29弦フロアハープLorraine Floor Harp もご紹介しましょう。

Lorraine New ナイロン弦セットの張力


Lorraine New ナイロン弦セットのバネ定数 k
(指が感じる弦の張りの強さ)


弦は、New String Set に変わりました。

29弦(ナイロン弦)G〜g'

Lorraine Old ナイロン弦セットの張力


Lorraine Old ナイロン弦セットのバネ定数 k
(指が感じる弦の張りの強さ)

Lorraine の最低音の5本 (G,A,B,C,D) が、巻き線ナイロン弦 になり、より豊かな低音のボリューム感が増したのと、中音・高音弦も一部が変わり、弦張力がより均一化され、綺麗な音の繋がりになりました。


図12 Stoney End 社の 29弦フロアハープBraunwen Floor Harp

Braunwen 弦セットの張力


Braunwen 弦セットのバネ定数 k
(指が感じる弦の張りの強さ)

音域は Lorraine と全く同じですが

外観は、ローヘッドの、Celtic-shape



最低音の3本 (G,A,B) に金属コア弦

低音9本(C,D,E,F,G,A,B,C,D)に 巻き線ナイロン弦 が使われ、

小型ながら、より豊かな低音のボリューム感があります。
低音弦拡大写真

中音・高音弦 も、Lorraine より弦長が約10%短い分、若干太いゲージの弦が使われています。

29弦に対して、15種類の太さ(ゲージ)の違う弦を使うなど、

大変、きめ細かな配慮がなされていますので、

弦張力弦セットのバネ定数ともに、連続性の大変良いハープです。

従って、
音色はパワフルでありながら、

各音の繋がりの良い、バランスの優れた音色となっています。

お聴き下さい。

少しご経験のある方にはお薦めの楽器です。

 


Musicmaker's Kits Harps

New

 
Shepherd-Mini    Eve (サイズ比較のために掲載)

# 音程  周波数 (Hz)   弦の長さ l (cm)  標準の弦セット  ハイテンションナイロン弦セット 
 弦の太さ (in)   弦の張力 (kg)  弦の太さ (in) 弦の張力 (kg)
1 g  1,568.00 12.5  .025 5.71  .025 5.71
2 f 1,396.90 14.0  .025 5.68  .025 5.68
3 e 1,318.50 15.5  .025 6.21  .028 7.78
4 d 1,174.70 17.5  .025 6.00  .028 7.52
5 c 1,046.50 18.8  .025 5.75  .032 9.42
6 b 987.77 20.5  .025 6.09  .032 9.98
7 a 880.00 22.4  .025 5.77  .032 9.46
8 g 784.00 24.2  .032 8.76  .036 11.09
9 f 689.46 26.2  .032 8.15  .036 10.32
10 e 659.26 28.3  .032 8.47  .036 10.72
11 d 587.33 30.5  .032 7.81  .036 9.89
12 c 523.25 32.8  .036 9.07  .040 11.20
13 b 493.88 35.2  .036 9.31  .040 11.50
14 a 440.00 37.7  .036 8.48  .040 10.47
15 g 392.00 40.3  .036 7.69  .045 12.01
16 f 349.23 43.1  .036 6.98  .045 10.91
17 e 329.63 46.2  .040 8.82  .045 11.16
18 d 293.66 49.3  .040 7.97  .050 12.46
19 middle c 261.63 52.8  .040 7.26  .050 11.34
20 b 246.94 56.5  .050 11.57  .050 11.57
21 a 220.00 60.6  .050 10.56  .055 12.78
22 g 196.00 65.0  .050 9.65  .055 11.67

合計

171.77 合計 224.64

図13−(1)Shepherd-Mini Lap Harp 2 2弦 ラップハープShepherd-Mini

Shepherd-Mini 標準弦セットの張力
Shepherd-Mini ハイテンションナイロン弦セットの張力

Shepherd-Mini  標準弦セットのバネ定数 k
(指が感じる弦の張りの強さ)

Shepherd-Mini ハイテンションナイロン弦セットのバネ定数 k
(指が感じる弦の張りの強さ)

図13−(2) Musicmaker's Kits 社 オリジナルサイズ 2 2弦 ラップハープShepherd

Shepherd ナイロン弦セットの張力


Shepherd ナイロン弦セットのバネ定数 k
(指が感じる弦の張りの強さ)


左から
Shepherd  Eve  Brittany

Shepherd の特徴は、大きなサウンドボードを生かして、特に中音部の音量が豊かで、張りがあります。 それは、弦の張りの強さからも、良く分かります。


図14 Musicmaker's Kits 2 6弦 ラップハープLimerick

Limerick ナイロン弦セットの張力

従来仕様ストリングセット (F-c)

 


図15 Musicmaker's Kits 29弦 フロアハープStudio Harp

Studio Harp ナイロン弦セットの張力


Studio Harp ナイロン弦セットのバネ定数 k
(指が感じる弦の張りの強さ)

 studs1.jpg (4948 バイト) studiom3.jpg (3971 バイト)
Original String Chart

Studio Harp の特徴は、中音から高音の伸びやかな点です。 オプションの Low G 〜g' ストリング を使うと、最低音は G まで下がります。 


Studio Harp その後


1997年製 Original Studio Harp

Studio Harp 弦仕様変更機

チューニングピンをテーパーピン (Tapered Harp Pin) に変え、更に、弦張力の均一化を図るため、オリジナルのストリングセットにない、
.028", .045", .055" 太さの弦を加えて、このストリングチャートの様に弦を張りなおしました。
これにより、弦張力は下の図のように均一化でき、音色のバランスが大変良くなりました。
  


この
 
Studio Harp は、2012年 愛知県一宮市の NPO法人響愛学園 に寄贈致しました。

障害を持った子供たちが、この楽器に触れ、情操豊かな人として、すくすく大きくなってくれることを願っています。

 これは、学園から早速頂いた写真です。 2012-12-25


図16 Musicmaker's Kits 34弦  フロアハープRegency Harp

Regency 弦 セットの張力


Regency 弦セットのバネ定数 k
(指が感じる弦の張りの強さ)


金属コァ弦

Regency Harp には、ナイロン弦 + 金属コァ弦 が使用されています。 最低音域の1オクターブには、金属 コァ弦 が使われていて、重低音を楽に出すことが出来ます。

全体に、弦の張りは、やや強めのハープですが、サウンドボードも大きく、重量感もありますので、重厚な、深みのある音色です。 中・高音部は、透き通った張りの有る音色が特徴です。

このハープは、Musicmaker's Kits 社ハープの中で、最も音楽表現の発揮出来るハープです。


図17 Musicmaker's Kits 33弦  フロアハープVoyageur Harp

Standard String Set 弦の張力

 

C3-E3 はナイロン弦

Standard String Set


Performance String Set 弦の張力

 

A2-E3 ガット弦使用

Performance String Set

Performance String Set では、A2-E3 の 5弦には、豊かな温かい響きのガット弦 が使用されています。

ナイロン弦より太く、重いガット弦を使用することによって、上のグラフのように、ナイロン弦の張力の落ち込みをカバーし、

弦の張力バランスが良くなり、弾きやすさが改善されたともに、音色のつながりが良くなりました。


Aoyama Harp


左から Eve, Aoyama サウルハープ, Limerick

あるお客様から、Aoyama サウルハープ 25弦 G−c の音色を、もう少し柔らかく、丸くして欲しい・・・と言うご依頼を頂き、弦の張力を検討してみました。

Aoyama サウルハープ は、使用している弦の種類も多く、張力の連続性は、大変バランス良く考えられていますが、上の写真をご覧頂いてもお分かり頂けるように、共鳴胴の大きさは、Stoney End の Eve 程度のボリューム(体積)しか有りませんが、音域は、Limerick (26弦 F−c と殆ど同じ、25弦 G−c となっています。 従って、弦の張力が大きいと、大変鋭い音色にならざる得ない設計になっています。 これが、Aoyama ハープ の大きな特徴であることは間違いないのですが、Stoney End  Musicmaker のアイリッシュハープと同じような、軽いタッチでの演奏感覚は望めないと思われます。

そこで、特に、弦の張りが強く感じられる、中音域の弦のゲージを低くして、弦の張力を下げて見ました。

下の図をご覧下さい。 オレンジで示したものが、弦の張替え後の物です。 (同じ点は、替えてない弦)

中音域の弦の張力は、20−30%程度下がり、 上の Eve ハイテンションナイロン弦セット のような演奏感覚になりました。

通常の、Eve 標準弦セット のような柔らかさにはなりませんでしたが、Aoyama サウルハープ の良さを残して、気軽に弾けるハープになったものと思います。

ご参考までに、音もお聴き下さい。

(Before) 変更前  (After) 変更後

横浜市在住のハーピスト 雨森さん に、Recording を送っていただきましたので、ご紹介します。

分散和音とスケール (After) 変更後  Oruco an ceo (Irish Traditional) (After) 変更後


弦 の張力

 弦のバネ定数 k (指が感じる弦の張りの強さ)

 


このページでご紹介しているハープの音は、 でお聴きになれます。 是非、このページのデータと見比べて、お聴きください。


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工房ミネハラ
Mineo Harada

Updated:2012/12/26