弓の力学 (7)

   第2章 弓の強さ・柔らかさを考える

red.gif (61 バイト)

 弓の振動は・・・誰が止めてくれるのか・・・ 

弓先は、弓の性能次第・・・

弓中央から弓元は、右手のコントロール次第・・・

 

弓の強さは十分ですか・・・

それは、弓の性能に大きく影響しています。

 

あなたの弓の 強さ・柔らかさ・・・果たしてどれくらいでしょうか。

 

弓の振り子振動、 誰が止めてくれているのか・・・考えてみました・・・

前章でデータをとった Sandner の弓について、もう一度、下の写真のデータを眺めてみましょう。

 

 x=0.25 の位置では 振り子振動 は比較的すぐに治まっていますが、x=0.5 、 x=0.75 の位置では、すごく長い間振動が持続しています。これでは、演奏にはなりません。 実際の演奏でも、そんなことはありません。

 

したがって、このビデオ  にあるような 振り子振動 は、誰かが止めてくれています。

 

弓のコントロールは、右手の人差し指から加えられる圧力、あるいは、それとその他の指との連携作用でなされていると思います。 従って、右手から近い位置で弾いた場合は、右手のコントロールがスティックを通して有効に毛に伝わり、振り子振動 を素早く止めているものと思われます。

 それが、 ボウイング練習の賜物 ・・・というものでしょう。

 

ところが、このビデオ にあるような 振り子振動 は、誰も止めてくれないので、実際の演奏時に厄介な問題になって来ると考えます。 

 

 右手から 遠い位置  で弾いた場合は、 右手のコントロールがスティックを通して伝わりにくく  、よって、振り子振動 を止めにくい・・・と考えられます。

 

ですから、その振動を如何に少ないものにするか・・・という点で、 弓の性能  が大きく影響するものと考えました。

 

 


弓先の振り子振動を詳しく見てみると・・・

では、弓先の、 x=0.25 の位置での 振り子振動 の様子を、もう少し詳しく見て、弓によってどのような違いがあるか・・・調べてみましょう。

 

下のデータは、このホームページでサンプルとして検討している、

これらに、更に数本のチェロ弓を加えた、13本のチェロ弓について、x=0.25 の位置での 振り子振動 の様子を記録したものです。 実際の演奏時に近い条件となるように、弓の荷重点には 約1Kgの力を加えています。(結構、大きな音を出すときの圧力です)

 

 このサウンドデータとして記録されています。 このサウンドを聴く限りでは、それ程の差はわかりませんが、下の写真では、振動が早く収まっている弓と、何時までも収まらない弓があることがわかると思います。

 

 

違いの明確な、極端な例について見てみます。

 

下のデータは、上のデータの 3番目の Gabriel G30 と 5番目の AC-30 の時間軸を拡大して表示したものです。 明らかに、AC-30 の方は、振動が収まるまでに時間がかかっています。

 

そうです。 弓によって、このように 振動の収ままり方に違いがある ・・・というです。

 

次の検討課題は・・・ この違いは、何なのか ・・・と言うことになりました。

 


振動は、なぜ減衰する・・・?

上の写真のように、一旦始まった振動が収まってゆく現象を、 振動が減衰する ・・・と言います。

 

振動工学 では、この様子と、その程度を定量的に評価する手法が確立しています。 ここでは、その考え方を導入して、弓の違い・・・について考えて見たいと思います。 参考文献はこちら (SHOCK AND VIBRATION HANDBOOK Vol. 1  McGraw-Hill 1960)

 

下の、 図 19 振り子振動における減衰振動の減衰比 に示したように、何もしないのに 振動が減衰する ・・・と言うことは、材料・・・(ここでは、弓のスティックや毛・・・ということと考えられますが) の中で振動のエネルギーが熱のエネルギーとしして散逸(消費されてしまう)してしまう・・・ということです。

 

弓を持って、実際に演奏しているときは、持っている手や弦に当たっている部分でもエネルギーは散逸してゆくでしょうから、実際の振り子振動の減衰はもっと早く行われ、 コントロールの良いボウイング  が出来ているのだと思います。

図19 振り子振動における減衰振動の減衰比

それでは、上で示した、13本のチェロ弓について、x=0.25 の位置での 振り子振動 における、 減衰比 ζ (ゼータ) の値を実際に求めてみましょう。

 

ζ (ゼータ) の値は、図 19 に表した計算式で計算しました。

データの信頼性を高めるために、振動波形において (区間 A) -9dB ~ -15dB と (区間 B) -12dB ~ -18dB の2ケ所で、6dB 減衰する振動の回数 n を波形から読み取った。 6dB の減衰というのは、振幅が 1/2 (50%) に減衰したことを意味する。

 

測定結果を、表7 振り子振動の減衰比 ζ (ゼータ)

表7 振り子振動の減衰比 ζ (ゼータ)

図19 振り子振動振動数 と 減衰比 ζ

 評価 

このビデオ にあるような 弓先 x=0.25 の位置の 振り子振動 の振動数で比較してみました。

振り子振動 の振動数が大きい弓は、振り子振動の減衰比 ζ (ゼータ) も大きい傾向にあります。

減衰比 ζ が大きい・・・ということは、一旦振動を始めても、その振動が収まる時間が短い・・・ということになります。

更に言えば、減衰比 ζ が大きい・・・と言うことは、振り子振動 が起こり難い・・・とも考えられると思います。

このビデオ にあるような実験をした場合、
減衰比 ζ が大きい弓の方が、振動は早く止まると思います。

 
図20 スティック中央バネ定数 Km と 減衰比 ζ
 評価 

一定の圧力 (200 gr) で弾く・・・ということは、全弓で同じ程度の強さの音を出す・・・と言うことです。 スティック中央バネ定数 Km の大きい方が、弓の中央部の変位が少ない・・・と言うことで、

 スティックが強い弓 ・・・と いうことです。。

このビデオ にあるような 弓先 x=0.25 の位置が弦にあたっている スティック中央バネ定数 Km で比較してみました。

スティック中央バネ定数 Km が大きい弓は、振り子振動の減衰比 ζ (ゼータ) も大きい傾向にあります。

すなわち、 スティックが強い弓 ・・・の方が、一旦振動を始めても、その振動が収まる時間が短い・・・ということになります。

更に言えば、スティック中央バネ定数 Km が大きい方が、振り子振動 が起こり難い・・・とも考えられると思います。


この弓で、弾いてみました・・・

まずは、このサウンドを聴いてください。  図 21 弓を打ち下して弾き始める に示したように、解放弦 D で、x=0.25 の位置で、弦の上 約 5mm からアップで打ち下ろし、真中まで弾いて一旦持ち上げ、次は、x=0.5 の位置で、弦の上 約 5mm からダウンで打ち下ろし先まで弾いて持ち上げる。

これを、アップ、ダウン 各4回弾いています。

 

13本のチェロ弓について、 同様に弾いて、x=0.25 の位置(注)でのアップの時に、最も 弓の振れ が大きいと思われる音を、繋げたものを、

このサウンドにしました。 (下の波形写真)

 

(注) 私のようなアマチュアのチェロ弾きでは、x=0.25 のアップ が、一番 弓が振れやすい。

図21 弓を打ち下して弾き始める

 

まずは、このサウンドを聴いてください。  図 21 弓を打ち下して弾き始める に示したように、解放弦 D で、x=0.25 の位置で、弦の上 約 5mm からアップで打ち下ろし、真中まで弾いて一旦持ち上げ、次は、x=0.5 の位置で、弦の上 約 5mm からダウンで打ち下ろし先まで弾いて持ち上げる。

これを、アップ、ダウン 各4回弾いています。

 

13本のチェロ弓について、 同様に弾いて、x=0.25 の位置(注)でのアップの時に、最も 弓の振れ が大きいと思われる音を、繋げたものを、

このサウンドの中で  どの弓が 振れ難く 、どの弓が 振れ易い と見ましたか。 私の評価は、 のようなものとなりました。

 

図22 弓を打ち下して弾き始めた時の弓の振れ評価

 

以上、結論の多少強引な誘導・・・かもしれませんが、

 

 振り子振動の振動数 が、x=0.5 の位置で  15 Hz 以上の 、x=0.25 の位置では  26 Hz 以上 と言う性能を持ち、

 

 スティックの材料などから決まる 振動の減衰能力 の大きい弓が、

 

  安定して弾ける弓 ・・・という事になるような気がいたします。

 

 この様な性能の弓は、振動のコントロールがしやすいので、俗に言われる

 吸いつき感の良い弓  

 と言うことになるのだと思います。

 

前章の 表6再表示しておきます。

表6・・・再表示 振り子振動 の振動数 fo の (計算結果) と (実測値) 

  Cello Bow 材質 形状 先から
位置
x
(計算結果)
fo
(Hz)
(実測値)
平均値
fo
(Hz)
1 Sandner  

Pe

 

0.00   53.5
0.25 26.6

25.9

0.50 15.9 15.4
0.75 9.3 9.3
2 Arcus
Veloce
 

CFRP

 

0.00   87.5
0.25 27.9

28.8

0.50 16.6 16.1
0.75 9.9 9.7
3 J.P.Gabriel
G-30
 

Pe

 

0.00   54.0
0.25 28.2

28.6

0.50 16.6 16.8
0.75 9.9 9.8
4 J.P.Gabriel
G-18
 

Pe

 

0.00   49.5
0.25 26.0

26.3

0.50 15.8 16.0
0.75 9.4 9.5
5 AC-30  

Hw

 

丸 

0.00   50.5
0.25 20.0 20.3
0.50 11.7 11.6
0.75 7.1 7.0
6 CB-150  

Hw

 

0.00   48.0
0.25 24.2 23.2
0.50 14.1 13.8
0.75 8.4 8.2
7 CB-200  

Bw

 

0.00   54.5
0.25 23.8 24.7
0.50 13.6 14.5
0.75 8.1 8.7
8 CB-380  

Pe

 

0.00   52.5
0.25 26.3

26.1

0.50 15.2 15.4
0.75 9.1 9.1
9 CB-500  

Pe

 

0.00   52.5
0.25 24.0 23.3
0.50 14.4 14.1
0.75 8.6 8.6
10 RC-16  

Pe

 

0.00   55.0
0.25 24.8 24.3
0.50 14.7 14.7
0.75 8.8 8.7
11 Carbow  

CFRP

 

0.00   53.5
0.25 30.0

29.8

0.50 18.2 17.4
0.75 10.6 10.5
12 Carbondix  

CFRP

 

0.00   54.0
0.25 26.6

27.1

0.50 15.5 16.2
0.75 9.2 9.6
13 Arcus Sonata  

CFRP

 

0.00   92.0
0.25 27.5

29.8

0.50 16.3 16.4
0.75 10.1 10.0

 

 少し長くなりましたので、この続きは次章以降とします・・・ 


この続きは、続き( 8)をご覧下さい

目次に戻る

弓の力学 続き (8)


menu.gif (338 バイト)


工房ミネハラ
Mineo Harada

Updated:2009/10/13

First Updated:2007/8/28