チェロの力学

第4章 ウルフトーンの発生メカニズムと対策は?

★ウルフトーンの低減対策

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前章までで、ウルフトーンの発生メカニズムが凡そ掴めましたので、いよいよ、それを少しでも低減する対策法を考えたいと思います。

話が、ここで、完全対策と行かず、それを少しでも低減する対策法 と言う、やや消極的な表現になっていることをお許しください。

実は、ウルフトーンを、完全に無くす事は不可能なためです。

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それでは、もう一度、前の図19を見てみます。

図19

上の、図19は、 

裏板が良く響き、よく鳴る楽器ですと、ある特定の音を演奏した時に、

表板の振動が打ち消されてしまう 様子を、模式的に表したものです。

 ここで言う、表板の振動とは、駒の振動、あるいは、弦の振動と置き換えて考えても良いと思います。

それでは、 それを少しでも低減する対策法 として、結論から申し上げます。

ウルフキラー (ウルフ止メ)

を、取り付けて、その位置を調整して、対策する方法が、簡単で効果的です。

ウルフキラー (ウルフ止メ) 取付位置

上の写真は、クリックすると大きくご覧頂けます

市販されている ウルフ止メ には、上のような物があります。(実際には、もっと種類があります) 何が違うかと言いますと、主には重さが違います。

因みに、A=8.8g B=6.6g でした。 構造は、金属製(真鍮など)のパイプの一部にスリットが付けられていて、中にゴム製のチューブが入っています。 パイプの一箇所にネジが切ってあり、ゴム製のチューブをチェロの弦に通し、その上に金属製パイプをネジを締め付けて固定して取り付けるものです。

実際に取り付けた状態は、右の写真のようになります。 通常は、G線の、駒とテールピースの間に、しかも、駒に近い位置に取り付けます。

最近、あるホームページで、弦に嵌める部分にゴム製のチューブの無い ウルフ止メ と言うのを見ましたが、このゴム製のチューブの働きは、ウルフトーン を止めるには大変に役立っている物です。金属製の物だけの場合は、下でご説明するような 駒とテールピース間の振動のポイントが明確になりすぎて、不安定さが出てきます。 ゴムのような柔らかい物質を介して錘を取り付けることで、振動のポイントの幅を広げてくれる効果が有ります。 振動理論では、 Qダンプ と呼んで、鋭さを和らげる働きのことです。

このように、弦に嵌める部分にゴム製のチューブのついた ウルフ止メ を使ったから・・・と言って、他の音の時、弦の振動が抑えられてしまう・・・なんていうことは、絶対にありません。 むしろ、 Qダンプ している分、振動するポイントの幅が広がるのですから、ウルフ音 に対してだけでなく、例えば、D線で言えば、E から G 辺りまで、ウルフ止メ も一緒に振動して、余計に音の発音を良くしてくれます。

ウルフ止メ と言うパーツは、まさに、振動理論に則った、素晴らしい働きをしてくれるパーツなのです。

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それでは、何故このような重りを、ある特定の位置に取り付けると、ウルフトーン に効果があるのか、復習しながら総ざらいして見たいと思います。

■第3章 駒とテールピースの間も振動する? では、駒とテールピースの間の弦も振動すると言うことが分かりました。

図10 では、駒とテールピースの間の真中に、重り(ウルフ止メ)を付けたとき、その部分の弦の振動数がどれ位い下がるかを計算しました。

その事を、図20で、もう一度確かめて見ます。

図20

ウルフ止メ を付けない時は、その部分を弾いてみますと、結構キンキンした音ですが、ウルフ止メ を付けると、大分低い音になる事が分かります。

図21

上の図21は、その様子を図にした物で、前の図10 に有る物とおなじものです。

駒とテールピースの間の弦の質量 ms に対し、 その何倍の重さの ウルフ止メ  を付けると、 その部分の弦の振動数が、 1/N になるかという物を示したものです。

図20 にあるように、 何も付けない時の弦の振動数が 543Hz だったとしたら、 A=8.8g の ウルフ止メ を付けると、N=5.57 となり、振動数は98Hzまで下がります。 同様に、 B=6.6g の ウルフ止メ を付けると、N=4.85 となり、振動数は112Hzまで下がります。

この位の振動数に下がってくれると、ウルフトーン が出でいる音に近くなってきました。

次は、図11 で検討した、ウルフ止メ の位置を動かすと、その振動数はどのように変わるか? ということです。

図22

この図22は、 前の図11 に有った物と全く同じものです。

ウルフ止メ を駒とテールピースの丁度真中に取り付けた時が、 a=0.5 で、仮に、駒にピッタリ着けるまで近づけた場合が、 a=0 と言う事になります。

もし、ウルフトーン が F#音(184Hz) 付近に出るとした場合、 B=6.6g の ウルフ止メ を使い、振動数が112Hzまで下がったものを、ウルフ止メ を動かして、184Hz まで上げるには、

C=184/112=1.64 となりますので、 上の図22 より、a=0.1 辺りに移動すれば良いという事が、この図から分かります。

上にあるチェロの写真を、もう一度ご覧になって下さい。 大体そんな位置に付いていると思います。

すなわち

ウルフキラー (ウルフ止メ)

の位置を調整して、ウルフトーン の出ている振動数に合わせる。 (ただし、微調整は必要ですが)

これが、ウルフトーンを少しでも低減する対策法 です。

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何故でしょうか。

このページの一番上の、図19 をもう一度ご覧下さい。

図19は、 

裏板が良く響き、よく鳴る楽器ですと、ある特定の音を演奏した時に、

表板の振動が打ち消されてしまう 様子を、模式的に表したものです。

 ここで言う、表板の振動とは、駒の振動、あるいは、弦の振動と置き換えて考えても良いと思います。

表板の振動が打ち消されてしまう ので有れば、逆に、その時は、それを助けてあげる助っ人を借りれば、効果が出ます。

すなわち、駒とテールピースの間に、ウルフトーン の出ている振動数に合わせた 共振部分(これが助っ人です)を作ってやれば、ウルフトーン の出る音を演奏した時、その部分が共振して、大きく振動します。

これは、 ■第2章 表板に加わる力は? で検討した、表板を振動させる、加振力を増大させてくれます。

上の例ですと、F#音(184Hz) 辺りを弾いたとき、ウルフ止メ もブルブル振動します。 この振動が、駒を介して表板に伝わり、 裏板からの反力に打ち勝って ウルフトーン を低減してくれます。

ここで、ウルフ止メ の構造も重要です。

ウルフ止メ の構造の部分で、金属製(真鍮など)のパイプの中にゴム製のチューブが入っていると言いましたが、 このゴム製のチューブは優れた働きをします。

ウルフ止メ が、仮に金属の物体のみで出来ていたとしまと、上記の共振の周波数 は非常に範囲が狭くなってしまいます。 しかし、弦と実際の金属製の重りの間にゴムを介すことによって、振動に減衰を与え、共振の鋭さは多少落としても、共振してくれる周波数の幅を広げてくれています。

このページの一番上の、図19 をもう一度ご覧下さい。 ウルフトーン は、F#音(184Hz) 辺りに発生していたとしても、その前後の音も多少影響を受けて、下がってしまっています。

ウルフ止メ が共振してくれる周波数の幅が広ろければ、それらの前後の音を弾いた時も、ウルフ止メ はブルブル振動して呉れます。 実際、D、E などを弾いた時にも、ウルフ止メ はブルブル振動して呉れます。 これを確かめるのは、足がウルフ止メまでは届きませんので、大変難しいですが。

実際は、最終的に、演奏しながら、ウルフ止メ の位置を微調整して、最適な位置を見付け、ネジで固定します。

良い位置に調整されると、 ウルフ止メ を、指で弾いて見た時、  辺りから、 F# 位の音が聞き取れると思います。

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以上、チェロを叩いた時に聞き取れる音程(チェロの固有の振動数)と、ウルフトーンの発生メカニズム、その低減策を考えて来ました。

実際の場合は、計算した値や、チェロを叩いて聴けた音などは、随分違いは有ると思いますが、凡その現象と、その対策方法のヒントは得て頂けたと思います。

こんな小さなパーツ一つが、貴方のチェロを弾きやすくしてくれます。 是非、色々とお試し頂ければと念じております。

次は、 ウルフトーン を抑えることが出来るウルフ止メ (Wolfkiller) の挙動を実際に検証してみたいと思います。

皆様のチェロの調整のお役に立てれば幸いです。


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Updated:2008/5/23

First Updated:2000/7/13