バイオリン の

  ミニ科学

 あなたのバイオリン練習を効果的に進めて戴くために

指で弦をはじいて弾く、ピッチカート だと、直ぐに音は止まってしまうのに、

弓で弦を擦ると何時までも鳴り続ける バイオリン・・・、でも、弓の毛に松脂を付けなかったら、どんなに上手な人でも、殆ど音を出すことは出来ません。

・・・そんなの、当たり前じゃない・・・という前に、音の出る仕組みを、簡単に考えて見ましょう。 


この写真のように、大きな穴を開けてしまったバイオリンでも、
ちゃんとバイオリンらしい音は出せますが、

このバイオリンのように、骨のような木の構造物に弦を張っただけのバイオリンは、
弓のテクニックを生かし、バイオリンらしい音を出すのは、大変難しいものです。

 なぜなんでしょうか。 


ナットと駒の間に張った弦は、弦の太さ・重さ・張力によって決まる振動数が決まっています。 弦を弾けば、その振動数の音が出ます。 これは、極、当然の事です。

弓で擦っても、基本的にはそれと同じ振動数の音が出ます。音の高さ(音程)を変えるには、指板の上に弦を指で押さえて、弦の長さを変えて、振動数を変えている訳です。

擦ると 音が出る・・・・・??? 
  • 綺麗に洗ったお皿を、指で擦る・・・と、「きゅきゅ・・・」と音がしますよね。・・・テレビのコマーシャルにもあります。

  • 大掃除で、窓ガラスを綺麗に拭き取ると、最後の方で、やっぱり「きゅきゅ・・・」と音がします。・・・気持ちが晴れ晴れしてきますよね。

  • 最近の自動車は、整備が良いので、そういうことは少ないですが、でも、高速で走っていて、急ブレーキを踏むと「キィー・・・」と音がでます。

弓を使ってバイオリンを演奏する・・・と言うのも、これと全く同じ状況が起こっているのです。

その時、必須要件があります。 それは、次のものです。

  1. 弓の毛には、必ず松脂が塗られていること・・・これは、摩擦力 を発生させるために必須です。

  2. 弓の毛には、適当な圧力を掛けること・・・これは、右手のテクニックです。

  3. 弓は、適当な速さで動いていること・・・弓が止まれば、音も止まってしまうので。

(注)オケなどやっておられる方では、col legno(伊) (コル・レーニョ) と言う奏法はご存知とおもいます。 

   弓の毛の部分ではなく、木部を使って・・・擦って や 叩いて 演奏する方法です。

   これでも、ちゃんと音は出ますので、上の必須要件は、弓の毛に限定するものではありませんが、便宜上、弓の毛とします。

上の必須要件のうち、A は、良い松脂を使うこと。  (圧力) と C (速さ)  は、 あなたのボーイング のテクニック  で決まってしまいます。


では、弓で擦る と、どうして音が出る・・・振動する・・・のか、 すこしだけ 科学的に考えてみましょう。

下の図は、自動車が、高速で走っていて、急ブレーキを踏むと「キィー・・・」と音がでる。 などの原理を説明するのに、昔から(私の学生時代に既に )使われていたもので、

このような現象で発生する振動は、自励振動 (self-excited vibration) などと、工学的に呼ばれています。 別名 スティック・スリップ現象 などとも呼ばれいてます。

 
 

この図は、何を解析するか・・・と言うと、

振動する物体が、滑るものの上に置かれてとき、どのように振動するか・・・を、数式を使って調べよう・・・と言う物です。

機械工学・振動工学 などに、ご関心の無い方には、ご理解が難しいだろう・・・と言う事は承知のうえ、敢えてこの図をご紹介していますので、そのような場合は、見なかった 事にしてください。

一つだけ、結論を申し上げます

弦など、振動する物体が、摩擦力を持つ別な物体で擦られる

振動する物体は、振動を開始し、その振動の大きさ・・・弦の場合は、振動によって発生する音は

だんだん大きくなってゆく・・・発散(発振)が始まる

と言うことです。

とすれば、 摩擦力を持つ別な物体  バイオリンの場合は、弓 ですが、弓を動かし続ければ、音は、ずぅーと出ている・・・と言う事になります。

 自励振動 (self-excited vibration) とは

 皆さんは、テレビでこんな映像をご覧になったことがあるとおもいます。

 昔、アメリカで吊橋が風の影響を受けて、初めはゆっくりと揺れだしたのですが、その振動の揺れが収まらず、かえって風の力を受けてだんだんと激しくなって遂には吊橋は捻れて落下してしまったのです。
 

 吊橋と言うのは、橋脚から吊り下げられていますので、もともと振動する物体です。 そこに、風が吹き付けた時に、摩擦力のような力が吊橋に作用したのです。その結果、初めは小さかった振動が、どんどん大きく発散(発振)して、吊橋の強度が持ちこたえられなくなり、ついに壊れてしまった・・・と言う事故です。

 すなわち、この事故でも、自励振動 (self-excited vibration) が問題となり、このようなことを起こさないための研究がその後進みました。

現在の吊橋は、多分、安全でしょう。

 

 混同を避けるために付け加えますが、この吊橋が壊れたのは、地震などで建物が倒壊するのとは違うメカニズムです。

地震の際に建物が壊れるのは、建物が持っている揺れの固有周期(固有振動数)が、地震での地面の揺れの周期(振動数)に有ってしまうと、建物が地震の揺れに共振してしまい、次第にその揺れが大きくなって、遂に強度が持ちこたえられなくなって壊れてしまう現象です。

 このような振動は、共振現象と呼ばれます。

 

自励振動 (self-excited vibration) と言う現象は、元の力が、振動しているものでなくても、振動体に振動を引き起こす現象のことを言います。

バイオリンの弓も、振動させているわけでは有りません。 単に、圧力を掛けて、引張っているだけです。

要は、バイオリンの弦は、弓の摩擦力から何らかのエネルギーを貰って、振動を続けている・・・と言うことです が、バイオリンは壊れないとおもいます。 ご安心下さい。

下の図で、もう一度整理してみます。

ピッチカート のような、単に弦を弾いた音は、直ぐに止まってします。 これは、弦に一度加えられたエネルギーが、駒や胴を振動させるエネルギーや空気を振動させるエネルギーに食われてしまい、消滅してしまうからです。

ところが、 摩擦力を持つ別な物体  で、弦を擦り続けていれば、駒や胴を振動させるエネルギーや空気を振動させるエネルギー分だけを、弓から供給してやれば、弦は振動し続ける・・・と言う事になります。

下の図を、もう一度良くご覧下さい。

弓から弦の振動系に供給されるエネルギー・・・とは、一体、何でしょうか。

エネルギー・・・の最も簡単なものは、  (この場合は、弓の毛と弦の間に働いている摩擦力) と、その動いた距離 (弓を動かした長さ) です。

 エネルギー =   × 距離   と表せます。 距離 と言うのは、速度×時間 ですので、

(注)時速 4km/hr の速度で、1時間歩くと、歩いた距離は 4km と言うのと同じです。

 エネルギー =   × 速度×時間   と考えて良いでしょう。

ここで、大切なことは、

弓の毛と弦の間に働いている 摩擦力・・・(これは、弓の毛を弦に押し付ける右手の力の入れ具合と、弦と弓の毛の間の摩擦係数によって決まる)

 と

弓を動かす 速度 が大切・・・と言う事が分かります。


実際のバイオリンでは、どういうことになるのでしょうか。

この図は、バイオリンの主なパーツを示した物です。

なぜ、こんな構造と形になったか・・・は、歴史的なバイオリン作りのマイスターに聞いて見ないと分かりませんが、300年以上もこの形が変わらない・・・と言う事は、これが、最良だと言うことなのでしょう。

要は、弦に発生した振動を、いかに空気中に、綺麗な音・遠くまで響く音・・・として発散させるか・・・を追及した結果とおもいますが、

この構造物を上手く振動させるには、結構沢山のエネルギーが必要なのです。

表板に載って立てられている駒の足元の裏には、表板の縦方向に、バスバー と言う木が貼り付けられています。 これは、駒の足から表板に伝わった振動を、表板全体に拡散させる働きや、表板の強度を増す働きをしています。

表板に載って立てられている駒のもう一本の足元の近くには、表板と裏板の間に、突っ張って立てられている細い木の 魂柱 と言う棒が立てられています。 これは、表板の振動を裏板に伝達する働きがあり、その立てる位置や突っ張り加減などによって、バイオリンの音色・音量は微妙に変わってきます。  の  と言うくらいですので、バイオリンにとっては、最も重要なパーツなのだとおもいます。

上で説明しましたように、弓の毛の摩擦力と弓の速度によって弦に発生した振動は、これ等の色々なパーツの振動作用によって、空気の振動に変わって、綺麗な音・遠くまで響く音・・・として、私たちの耳に届いているのです。

表板や、魂柱で繋がれた裏板 などの、胴を構成している部分、すなわち、胴の振動系 も、複雑な振動系を構成していますが、上の図からも分かるとおもいますが、弦の振動している部分・・・弦の振動系 に比べ、遥かに大きいため、その部分を効果的に振動させるには、 大きなエネルギー が必要になる・・・と思いませんか。

そうなんです。

胴の振動系 を 上手く振動させるには、

弓から供給される エネルギー は、それなりに大きな物が必要になる。

と言うことになります。

要は、ただ、弓を弦の上で滑らしていれば、バイオリンが良く鳴ってくれる・・・なんていう、単純なものでないことは、バイオリンをお稽古されている方であれば、実感でしょう。

お稽古でも、先生から注意されるのは、弓の圧力やスピード・・・などなど。  左手より、むしろ右手の方が難しい・・・と思われませんか。


そのような見方で、このバイオリンのような、骨のような木の構造物に弦を張っただけのバイオリン を、もう一度見直して見ましょう。

便宜上、このような構造のバイオリンを、骨構造バイオリン と呼びました。

普通は、サイレントバイオリン などと呼ばれていますが、ここでは、音のでる仕組み を考えていますので、構造の違いから、そのように分類しました。

このバイオリンの振動系を模式図にして見ますと、下の図のようになります。



この図は、直ぐにイメージできるとおもいます。

弦の振動系 は、普通のバイオリンとほぼ同じですが、

胴の振動系 の部分は、殆ど振動しない剛体となっています。

従って、胴の振動系 の部分は、殆ど振動しないため、そこからは音が空気中に発散されませんので、サイレント なのです。

反面胴の振動系 強制的に振動させる必要が無くなってしまうので、その部分を効果的に振動させるための、 弓のエネルギー は必要ない・・・と言うことにもなってしまうのです。

 これは、どういうことなのでしょうか。
 

そうです。 弓の圧力やスピード・・・などに敏感に反応する演奏結果にはならない・・・と言う事です。 

言い換えると、ボーイングが余り上手でなくても、音は出せますが、逆に、ボ−イングの練習にも向いて無い・・・と言うことになってしまいます。

因みに、(株)ヤマハミュージックメディア から発売されている、「ヴァイオリンを読む本」 には、このように解説されています。 ごらん下さい。


工房ミネハラ では、このようなバイオリンの構造の違いによって、バイオリンにどのような振動が発生しているのか・・・簡単ですが調べて見ました。

下の3種類の構造のバイオリンで、


駒の直ぐ上に、左の写真の
コンデンサーマイクを置き、(このマイクは、テレビなどで、エレクトリックバイオリンを演奏いるプレーヤーが良く使っているものです)

バイオリンの直ぐ近くで発生している音を拾います。

これは、弦の振動やバイオリンの構造体の振動などを、振動体の直ぐ近くで音として拾っているものです。
 

(A)

(B)

(C)


普通のアコースティックバイオリン

表板・裏板を切り抜いた "Mute Violin"

骨構造バイオリン
 

下のデータは、それぞれのバイオリンの音の振動の周波数成分(どういう周波数の音が、どの位の強さで出ているか)を示した物です。

 

実際の音と、振動の周波数成分の波形は、下のビデオをクリックしていただけば、ご覧いただけます。

 (周波数成分の波形の拡大)

3つの音に就いて、振動の周波数成分の波形を観測していますが、

(A)普通のアコースティックバイオリン、(B)表板・裏板を切り抜いた "Mute Violin" (C)骨構造バイオリン の順に記録してあります。

バイオリンから出る音の強さは、(A) (B) (C) の順に小さくなってゆきます。

 

実際の音の波形は、下の写真のように、ギザギザ の波になっています。 これは、基本音 に対して、倍音が沢山含まれていから、このような複雑な波形になっているのです。

このような音の波形の中に含まれる振動の周波数成分は、下記のように分析できます。



 

振動の周波数成分の波形の鋭い尖りがのうち、一番左にある物が、実際に弾いている弦の 基本音 と言われるもので、この場合は、2番弦のA線の開放弦を弾いています。

振動の周波数成分の波形は、鋭い尖りが上に向かって伸びていますが、その尖ったところが、振動数に対応しています。

バイオリンだけでなく、楽器の音には、倍音が沢山含まれていますので、尖った山は沢山現れています。

 倍音 の話は、こちらをご覧下さい。
 

(A)

(B)

(C)


普通のアコースティックバイオリン

表板・裏板を切り抜いた "Mute Violin"

骨構造バイオリン

上の、振動の周波数成分の波形を比較してご覧下さい。

(A) 普通のアコースティックバイオリン と (B) 表板・裏板を切り抜いた "Mute Violin" の周波数成分の波形は、基本音 の部分が大きく、高い周波数になるにつれて、少しずつ小さくなってゆく傾向で、両者とも非常に良く似ています。 これは、元の構造が同じですので、当たり前かも知れません。

ところが、(C) の 骨構造バイオリン は、少し様子が違っています。

 基本音 や 2,3倍音 あたりの、演奏する時に 弓のエネルギー を注ぎ込んで鳴らす音が、余り出てないことになります。 その結果、基本音 や 2,3倍音 あたりでは、胴などの骨構造 は振動しないため、そこからは音が空気中に発散されませんので、サイレント なのですが、

 反面胴の振動系 を強制的に振動させる必要が無く 、弓の使い方 は、(A)  (B) の構造のバイオリンとは、全く違ったものになっています。


これらの違いは、バイオリンを演奏する時の演奏感覚の大きな違いで、また、練習の成果にも大きく影響がでるところです。

もし、バイオリンを練習用にも使うのであれば、弓のエネルギー が有る程度必要なバイオリンを選ばないと、練習にはならないと考えられます。

ベテランの方で有れば、何れをとっても、弾きこなすことは出来るとおもいますが。


以上、バイオリンの音の出る仕組み と、バイオリンの構造の違いによる音の出方 について簡単に解説して参りました。

あなたが、どのバイオリンを使うか・・・は、目的に従って選んで下さい。


もう少し詳しくご覧になりたい方は、続き をご覧下さい

バイオリン ミニ科学 続き

 をお読み頂き、有り難う御座いました。

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工房ミネハラ
Mineo Harada

Updated:2010/12/8