弓の力学 (9)

   第3章 弓のスティック振動

red.gif (61 バイト)

 弓の スティック振動・・・何か影響はあるのでしょうか・・・ 

スティックがこんな風に曲がっている・・・・・・・・信じられますか

スティックが振動する・・・?

それは、弓の性能に影響するのでしょうか。

あなたの弓の 振動モード・・・ ???

良い音が出せる弓ですか

 

スティックの振動が分かった・・・

これまで検討してきた 13本のチェロ弓のスティックの振動を調べてみました。 その結果を、 表9 スティック振動数 計測結果 単位:Hz に示します。

 

図26 Sandner 弓のスティックの振動モード (実測値)

 

各振動モードの実測値と、その値を検証するために行った計算結果とは、多少の数値の差は見られますが、スティックの振動の起こる現象を考えるには、十分なオーダー精度がえられたと思います。

 

ここで重要なことは、観測されるスティックの振動において、毛のあたる位置 x に関係なく、 どの位置でも目立つ顕著な支配的な振動成分  は、  スティックの 1次モード  と  支持ー支持 の 2次モード  が顕著であることが分かった・・・ということです。。

表9 スティック振動数 計測結果 単位:Hz ・・・表データ
 

    この表を印刷する場合は、この表データページを開き、ブラウザーの<ファイル><印刷プレビュー>で、用紙1ページに収まる縮小率を指定すれば全体を縮小して印刷できます。( 例・・・A4横、縮小率 45% )


スティック振動には、微妙な違いがあった・・・

これまで検討してきた 13本のチェロ弓のスティックの振動を分析してみました。

 

図26 各弓のスティックの振動モード をご覧ください。

 

弓の毛を弦に当てた状態の x = 0.5  の位置で、スティック振動の周波数分析結果を示しています。

 

100 Hz  前後のピーク値は、カーボンファイバー製の弓の Arcus Bow  以外は、殆ど同じ位置(周波数)にピークが現れています。

周波数・・・と言うと、直観的に分かり難いので、音程名で表しました。 大文字 C, D などは、チェロ C弦の音域です。 すなわち、最低音付近・・・ということになります。 小文字 c, d などは、そのオクターブ上の音です。

 

Arcus Bow  は、2本とも G が大きなピークを示し、その上は、g, g, g と、ちょうど倍音の関係のような位置にピークが現れています。 (これは、スティック振動が、弦のような倍音の関係で振動している・・・ということではなく、モードの違った振動のピークが、偶然、そのような関係になったものです)

 

100 -1,000 Hz  の間では、ピークの山が大きく出るもの、あるいは、ピークの数が多くでるもの・・・色々あります。

 

1,000 Hz  以上の高次の振動領域では、どれも皆下がってゆきますが、下がり方にわずかな差はあるようです。 分かりやすくするために、基準線を記入してあります。


 

さて、皆さんは、ここで気になることがあるのではないかと思います。

 弓で、音が変わる・・・???  

試してみました。・・・私の、拙い腕で弾いたのでは、差が現れるか・・・大変不安でしたが・・・。

 

このサウンドをお聴きください。

 

チェロは、こちらのページの楽器です。 A線のDから下に、スケールを弾きました。 何れの弓も、同じように弾く努力はした積りです。

 

  何か、違いはありましたか・・・???  ほとんど、あるいは、全く差はない・・・と思いませんか。

 

余談ながら、僅かに差があるあるかも・・・という話は、このページの後半に述べます。

図27 各弓の スティックの振動モード

Cello Bow

材質

スティック振動波形スティック振動の周波数分析

Arcus
Veloce
CFRP
Sandner Pe
J.P.Gabriel
G-30
Pe
J.P.Gabriel
G-18
Pe
AC-30 HW
CB-150 HW
CB-200 BW
CB-380 Pe
CB-500 Pe
RC-16 Pe
Carbow CFRP
Carbondix CFRP
Arcus
Sonata
CFRP

 


弓で音が変わるのか・・・???

  サウンド コメント
1

上で、13本のチェロ弓で弾いた 、このサウンドの中に、僅かな違いがある・・・と思われることがありましたので、ご紹介いたします。

 

大変興味深いテーマですが、30万円クラスの弓も、1万円クラスの弓も、その値段に比例した音の違いは無い・・・と云うのが、結論かもしれません。

 

ただし、 弓の弾きやすさ・・・  という点では、そこには大きな違いがありますので、混同しないでください。 それば、次章で検討します。

2 これは、 レファレンスボウ  と考えている、30万円超の J.P.Gabriel G-30 と、へなへなの弓 AC-30 で、弾いたもののみを繋げたものです。

 この二つの弓位い、 弓の性能が違えば、弾き出せる音のパワーは明らかに違います  ので、この音の違いは、理由が明確です。

3 これは、 レファレンスボウ  と考えている、J.P.Gabriel G-30 と、超軽量弓として登場したカーボンファイバー製の Arcus Sonata と、やはり、カーボンファイバー製で、限りなくウッドボウの特性に近づける狙いで開発された Carbow の三つの音を繋ぎ合せたサウンドです。

どれが優れている・・・とお感じですか。 Carbow も大変優れているような気がしております。 30万円超のウッドボウに匹敵する・・・と私は感じています。

4 これは、ちょっと曲者です。 G 音に、差を感じませんか・・・。

上で、Arcus Bow  は、2本とも G が大きなピークを示し、その上は、g, g, g と、ちょうど倍音の関係のような位置にピークが現れています・・・と述べましたが、

 

スティックの振動の振動数が、G, g, g, g のように、同じ音の周波数が含まれていると、実は、G 音を引いた場合、

弓が、その音のダンパー (振動を止めてしまう働きをするもの) になってしまい、弦の振動を妨害してしまう作用が働きます。

 

専門的には、振動の理論でいう、 ダイナミックダンパー  という作用です。

上の、二つの Arcus Bow  の G 音は、何となく 虚ろな感じ  を、私は弾いていて感じました。

 

ウッドボウでは、このようにスティックの振動の振動数が重なる・・・ということは、まず無いと考えられますが、Arcus Bow  の場合は、偶々、結果としてそうなったのだろうと思います。 多分、こうなることを意図して作った弓ではないと思います。

 

Arcus Bow において、この事実が致命的か・・・と言えば、全くそんなことはありませんので、弓の性能としては、無視できるレベルと思います。

今回サンプルとして取り上げた、13本のチェロ弓では、聴いてすぐ分かるような極端な音の違いは、見つけられませんでしたが、バイオリン弓のように、楽器の音域がもっと高く、スティックの高次の振動数に音が重なるような場合は、その差が現われてくることも考えられます。 その検討は、また別途とさせていただきます。

したがって、今回は

 

 チェロ弓では、弓によっての音の差は、余りない・・・  

 

というのが、結論かもしれません。

 

音の差は余り無くても、 弓の性能 差   には、大きな差はあります。

 次章では、全ての弓の 性能差について考えます・・・ 


この続きは、続き( 10)をご覧下さい

目次に戻る

弓の力学 続き (10)


menu.gif (338 バイト)


工房ミネハラ
Mineo Harada

Updated:2009/10/13

First Updated:2007/8/28