弾き易いマンドリン って なに


 
マンドリンの
どこを診る

 

 弾き易いマンドリン かどうかは、一目見れば分かります。

 新しい楽器か?、ぴかぴかで綺麗な楽器か? 等は、全く問題ではありません。 古い楽器でも、多少傷があったとしても、それも問題ではありません。 それなりの形状が保たれていて、それなりの調整がなされていれば、古い楽器でも弾き易い楽器に変身します。
 このページでは、どこが、どうなっていれば弾き易い楽器になるか・・・。 それを、修理の実績などを交えながらご紹介してゆきます。

 左の画像をクリックすると、解説に出てくる各部の名前が表示されますので、初めにご覧になってください。

 

フィンガーボード (指板)

 

 マンドリンは、ギターと同じように、指で弦をフィンガーボード(指板)に埋め込まれている金属製のフレットに押し付けて音程を作る楽器ですので、フィンガーボード(指板)やフレットがきちっと作られていることが最も大事な点です。

 木材で作られているフィンガーボードに関して起こりやすい問題点は、「ソリ」「捻じれ」と言う、所謂変形の問題です。強い弦の張り(張力)で、長年の間に「ソリ」「捻じれ」と言う変形が起こることは致し方ありませんが、その程度が大きいと問題として現れます。

 もう一つの問題点は、「フレットの浮き上がり」と言うものです。 金属製のフレットは、フィンガーボードに掘られた細い溝の中に、フレットを叩いて、下にある突起部が打ち込まれているパーツです。 したがって、長い間には、打ち込みの力が緩んで、浮き上がってくるものがあります。そういったときは、もう一度叩き込んで、高さを修正する事も出来ますが、部分的に浮き上がってしまった様なときは、浮き上がりをヤスリで削って(研磨)して平らに均す必要があります。 この例をご覧ください。

 フィンガーボードの「ソリ」「捻じれ」、「フレットの浮き上がり」は、見れば直ぐに分かります。 楽器を目の高さで水平になるように持って、ネックの頭の方向から、ナットすれすれにフィンガーボードを覗き込むと、フィンガーボードに打ち込まれたフレットの頂上部が、普通であればほぼ水平に見えます。 異常が有れば、どこかに出っぱりなどが見えるでしょう。
 また、ネックに反りが有れば、フィンガーボードの真ん中あたりが凹んだり、出っぱったりして見えます。 ここで大切なことは、フィンガーボードの真ん中あたりが凹んだ状態になっている事は、フィンガーボードの反りの程度が大き過ぎなければ、悪い状態では無く、むしろ良い事となります。 バイオリンやチェロなどの弦楽器では、フィンガーボードの真ん中あたりを、敢えて凹ませて削る「コーニッシュ」と言う加工を、初めから行っています。 これは、ブリッジを高くしなくても、フィンガーボード中央部の弦高を確保できるので、張りのある良い音を出すための工夫なのです。 マンドリンの場合、「コーニッシュ」の凹みの値は、0.5mm 程度位までなら最適でしょう。
 ネックに反りが大きく、凹みが極端に大きかったり、逆にフィンガーボードが凸に「順ゾり」しているようなものは、その楽器は諦めた方が良いかもしれません。 参考までに、バイオリンの「コーニッシュ」については、こちらのページをご覧ください。


ナット  での  弦高調整

 弦の一方の端が載っているナットは、次の重要パーツです。 普通は牛の骨 (ぎゅうこつ) などで作られていて、それぞれ2本ずつの弦が載る細い溝が掘られています。フィンカーボードに対しての弦溝の位置や、弦溝の間隔など寸法関係も重要ですが、弾き易さに関しては、なんと言っても「弦溝の深さ」 言い換えれば、フレットに対しての弦の高さ、即ち「弦高」の設定です。
 この画像をご覧ください。 完璧に調整された弦高の状態です。

 弦高の設定値は、通常は第一フレットの頂上と弦との間隔で決めています。 その値の目安は、第1、第2弦では、「その弦の直径程度の値」 が良いとされています。  OPTIMA Red String  の太さは、 第1弦 .01"(0.25mm),  第2弦 .013" (0.33mm) ですので、弦高は、0.2mm から 0.3mm 程度が良いと思われます。 第3、第4弦でも、せいぜい、 0.3mm から 0.5mm 程度が良いでしょう。 普通、古い楽器は、概ねこれより大きい場合があるので、弦を押さえる指が痛くなって弾きにくいものが多いと思われます。
 弦高が高過ぎるものは、専用の細いナットヤスリを用いて弦溝を深く削って調整しますが、弦溝の間隔や位置が良くない場合は、新しい牛骨でナットを作り直して、正確な弦高を設定しなおします。


ブリッジ

 弦のもう一方の端が載っているブリッジ要のパーツと言えるでしょう。 普通は黒檀やローズウッドのベースの上に牛の骨 (ぎゅうこつ) などで作られたピースが接着されて作られています。

 ブリッジの役割は、大きく三つあります。
 一つ目は、弦の振動を胴の表板に伝え、綺麗な響きを醸し出す重要な働きがあります。
 二つ目は、弦の高さ、「弦高」を決める重要なパーツです。 これが弾き易さには大きく影響します。
 三つ目は、開放弦の長さを決めているパーツです。

  ブリッジは、表板に接着されているわけではなく、弦の張力で表板に押し付けられて固定されていますので、その位置をずらすことで、ナットからブリッジまでの寸法を変えて、開放弦の長さを調節することが出来ます。


ブリッジ  での  弦高調整

 ブリッジの二つ目の役割は弦高を決めるパーツで、これが弾き易さに大きく影響している事は容易に分かります。
 ネックが弦の力で反ってしまった場合などでは、弦とフレットの間隔が大きくなってしまい、弦高が高くなってしまいます。 逆に、木材の乾燥などの影響や弦の圧力で表板が凹んでしまった場合は弦高は低くなってしまいます。
 楽器というのは、こうした時間の変化に対して、それ相当な時点で狂いを最適に調整しながら使用してゆくというのが基本的な考えです。 手工品の良い楽器では、それらの変化が極力出ないように、予め十分乾燥した材料を使って作りますので、継時変化は非常に少ないものです。 このページで紹介している楽器は著名な製作家の製作した楽器で、作られてから35年経っていますが、弦高の変化は極微量で、弾き易さには全く影響は出ていません。

 しかし、量産の楽器では、将来のこのような変化を見越して、後にパーツに修正を加えられるよう、ブリッジを予め高く作ってあるものが普通です。 そのような楽器を何もせず使っていれば、弦高はどんどん高くなってしまい、更に弾きにくい楽器になってしまいます。 数十年前の楽器たけでなく、最近作られたものでもその傾向はみられます。
 ブリッジによる弦高の調整は、通常、第12フレットと弦の間隔を所定の値になるように、弦が載っている牛骨のパーツに掘られている弦溝を、専用の細いナットヤスリを用いて弦溝を深く削って調整します。 弦高を幾らに設定するかは、その楽器のネックやフレット、表板など、その楽器の状況全てを勘案して決めますが、概ね、#1、 #2 弦は、2mm 前後。 #3、 #4 弦は、2.5mm を超えない程度としています。 各部の状態が良ければ、もっと小さな値にも出来ます。
 ブリッジ位置は、ナットから第12フレットまでの寸法の2倍の位置にあるので、弦高をどれくらい低くしたいかを決めれば、その値の2倍弱の値で予めブリッジの頂上を低く削って、そこに弦溝を付けて最終の弦高値にセットアップします。


ブリッジ  での  オクターブ調整


 ブリッジの三つ目の役割を説明します。 これは、通常「オクターブ調整」と呼ばれています。
 オクターブとは、オクターブ上とかオクターブ下とか言っているもので、8度上か8度下の音のことを言います。 マンドリンやギターなどのフレット楽器では、開放弦に対して、#12フレットを押さえるとオクターブ上の音を出せます。 即ち、弦の長さを半分にすればオクターブ上の音を出せるのです。 詳しく言えば、振動数が2倍の音を出すと言うことです。 左のマンドリン画像をもう一度クリックしてご覧ください。
 
#12フレットの位置が開放弦の長さの半分のところであれば良いと言うことです。

  違った言い方では、#12フレットからブリッジの弦の載っている位置までの寸法は、ナットから #12フレットまでの長さと同じであれば良いということになります。 ところが、実際の楽器になると、そう簡単には行かないのです。  この、小さなイラスト画像をクリックしてご覧ください。 ΔL と言うのがポイントです。

 これは、工房ミネハラが開発したギターチューニングシステム  MTS を解説した ギターの力学 から引用したページです。 興味のある方は、そちらもご覧ください。 ここでは、簡単に原理のみご説明します。

 上のイラスト画像の、上の C の絵では、オクターブの位置に人が乗った時 (弦を押さえた時)、踏み台が高いので、弦は下に押し込まれていません。 この時は弦の長さの半分の振動数の音、即ち開放弦の2倍の高さの音、オクターブ上の音が鳴ります。 しかし、実際は、下の C" の絵のように、弦はフレットに押さえられ、弦は少しだけ:引っ張られることになり、弦には開放弦の時より余計な張力 (
ΔS) がプラスに作用してしまうことになります。 もし、ブリッジの位置 (この絵では、家の位置) がそのままだったとしたら、実際に出る音はオクターブより、ちょっと上ずった音になっしまいます。 その問題を解決するために、#12フレットからブリッジまでの弦の長さを ΔL だけ長くして、振動数を僅かに下げれば、正しいオクターブ上の音が出せる・・・という理屈なのです。これをやらないとハイポジションの音程は相当酷いものになってしまいますので、必須の調整項目なのです
 #12フレットの音程が正確なオクターブ上の音になるように、ΔL の寸法を決めてブリッジをセットアップすることを オクターブ調整と言います。 これをすることで、ハイポジションの音程は格段に良くなります。


 弦の長さを
ΔL だけ長くする細工は、牛骨のパーツの前後を削って設定します。 その量は、 4弦それぞれの種類や太さが違いますので、弦毎に違った値となります。  OPTIMA Red String  を使用する場合、#1弦 2-2.5mm、 #2弦 4-5mm,  #3弦 3mm、 #4弦 4mm 程度の値となります。 即ち、理想的なオクターブ調整を行うと、ブリッジの弦の載る位置は、この画像のように前後に食い違った位置になります。

 マンドリンの場合、ギターなどより弦の長さが短い楽器なので、ブリッジの位置が 1-2mm 変わっただけでハイポジションのフレットを押さえた音程は大きく狂ってしまいます。 弦毎にブリッジの弦の載る位置を変える事が出来ないこの画像のブリッジのような、一本の頂上に全ての弦が載っているブリッジでは、4弦すべてに正しい音程を求めることは不可能となります。
 
  参考までに、ギターでの解説になりますが、オクターブ調整に関してはこちらで 詳しく解説しています。


チューナー (糸巻き)


 チューナー(糸巻き)は正確なチューニングするための重要なパーツです。 古い楽器の場合、錆や汚れで堅くなって回し難くなっているのが普通です。 そんな時は、外して綺麗に清掃します。 錆や汚れがない場合でも、ギヤ部には少量のグリースやミシン油で注油してやることも必要です。 それでも、回転がスムースでない場合は、分解し部材の修正などを行います。
 
 そんなことを色々やっても、満足行く結果が得られず、回すのが堅いような場合は、チューナー(糸巻き)を新しいパーツに交換することが求められます。
 ところが、それが、そんなに簡単な事ではないからです。 この楽器のチューナーのように、特殊に追加工がされているものの場合、現在の新しいパーツをそれと同じように追加工して仕上げることが、結構難しい場合があります。 更に、もっと厄介なこともあります。

 マンドリンのチューナーは、4本の弦を巻くポストが一つのプレートの上に組立られたパーツとして作られています。 もう一度この画像をご覧ください。 4本のポストをご覧いただけると思いますが、その寸法が問題なのです。 現在、市販されているマンドリン用のチューナーのポストの間隔は 23mm が標準となっています。 何時からこの寸法になったかは分かりませんが、以前の古い楽器に付いているチューナーは、23.3mm で出来ています。 たった 0.3mm の違いですが、端から端までになると 約 1mm の違いが出てしまい、ポストの位置が 1mm もずれると、すでにペグヘッドにあいている穴にそのパーツを取り付けることが出来ないのです。 穴をヤスリか何かで横に僅か広げてやるような加工が必要ですが、ポストとしっくり嵌らなくなるので動作は不安定になってしまうこともあります。思案の問題です。

 解決策は、ポストの間隔が 23.3mm のチューナーを探せば良い・・・と言うことになります。 現在、私が調達先としているパーツのディーラーでは、このメーカーのチューナー一種類のみでした。 結構、お値段は張りますが作りは大変に良いものです。 特に、ノブを回したときポストがどれだけ減速して回るか・・・という、即ち ギヤの「
減速比」が、18:1 と大きいので、ノブを楽に回せるという大きな特徴があります。 (注) 普通のチューナーの減速比は 14:1
  
チューナーの交換作業については、こちらのマンドリンの例をご覧ください。




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工房ミネハラ
Mineo Harada

2023/4/1